Yondaful Days!

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乙一『The Book』感想〜勝ったのはどっちだ?

The Book 〜jojo's bizarre adventure 4th another day〜

The Book 〜jojo's bizarre adventure 4th another day〜

「5年間を費やして書いた」と乙一本人も語るように、かなりの力作だと思う。
いわゆるノベライズは、ほとんど読んだことがないので比較できないが、ここまで原作のイメージを生かしきったオリジナルストーリーというのも珍しいのではないか?そう思えるほど。
ただ、一歩突き抜けた感じがない。乙一にしては小さくまとまっている。期待が強かっただけにそういう気持ちも強い。特に、『The Book』という、敵(主人公?)スタンドそのままの装丁が素晴らしすぎることもあり、もう少しメタミステリっぽい展開で驚かせてくれることを予想していたので、少し期待はずれだった。
つまり、乙一の力が十分に発揮されているとはいえない、という点にで、乙一×荒木飛呂彦作品としてではなく、あくまでジョジョのノベライズとして素晴らしい、という評価にとどまってしまう。偉大なミュージシャンへのトリビュートが、原曲のイメージを崩さないことに重きが置かれてつまらないときがあるように、今回の作品も、乙一自身のジョジョへの愛が強すぎて、枠にはまってしまった感じだ。
川本真琴のデビュー曲「愛の才能」は、岡村靖幸プロデュースではあったが、作詞は川本真琴岡村靖幸の詞を研究し尽くしたような、岡村愛に満ちた詞ではあったが、川本色も存分に発揮されており、二人の天才が出会うことによるケミストリー(化学反応)が、そこには確実にあった。乙一×荒木飛呂彦には、それが欠けていた。
さらに、直後に、ジャンプSQ*1に掲載された荒木飛呂彦岸辺露伴は動かない』を読み、改めてその思いを強くした。この作品は、『The Book』と同様、ジョジョ第四部の世界を舞台にしているので、時期的に考えて、小説版への逆トリビュートと考えることもできるのだが*2、むしろ、この作品の方が乙一っぽいのだ。乙一原作と聞いても信じてしまうほどだ。
荒木飛呂彦を超えられなかった乙一と、乙一を軽々越えてみせた荒木飛呂彦という構図は、両作品を読んだかなりの人が感じるのではないかと思う。
それでは、何が原因かといえば、乙一の過剰なジョジョ愛は置いておくとして、やはり「絵」にあるのではないだろうか?通常、小説を読むときは、描写から絵をイメージするが、ノベライズのときは逆である。既にある「絵」に対して、どういう描写がなされているかを楽しむ。特に、叙述トリック的なものが多い乙一作品においては、ゼロからイメージを組み立てる過程の部分で、その才能が発揮されるということが、今回の作品が、消化不良に感じてしまった原因かもしれない。勿論、オリジナルキャラクターがメインで動く作品ではあるのだが、それでも荒木飛呂彦の「絵」の持つ力には勝てなかった、というのが、自分の分析だ。
ただし、今後も十分可能性はありそうなので、次の「乙一×荒木飛呂彦」にも期待したい。

*1:岸辺露伴のためだけに買ったわけですが、対談もインタビューもあり、大満足でした。

*2:ジャンプSQ内の対談でも、荒木飛呂彦本人が、「小説に合わせて書いたわけではない」と言いながらも「影響を受けたりしている」と語っている。