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マーク・ライナス『+6℃ 地球温暖化最悪のシナリオ』(+3℃まで)

+6℃ 地球温暖化最悪のシナリオ

+6℃ 地球温暖化最悪のシナリオ

IPCCの第4次報告によれば、21世紀末の気温上昇は、最低で1.8℃、最高で4.0℃と予想される。(これらの数値は、それぞれが幅を持っているため、+4.0℃のシナリオというのは2.4〜6.4℃の気温上昇にあたる)『+6℃ 地球温暖化最悪のシナリオ』では、このような温度上昇による地球環境への影響について、+1℃〜+6℃の1℃刻みで、科学的事実を積み上げて説明されている。
ニュートン2007年8月号でも同様の特集が組まれていた(4℃まで)のだが、この種の「脅し」には慣れてしまって、不感症になっていることも事実。実際、IPCCの第4次報告のまとめがメインのニュートンの特集では、58ページを費やした特集記事よりも、4ページしかないスティーブン・シュナイダー*1のインタビューの方が読み応えがあった。

(2030年までに温室効果ガスの排出量を大きく削減するために必要な)1兆ドルという金額は、2%の成長率をもつ40兆ドル規模の世界経済から見れば、それほど大きくはありません。(中略)
2030年までに世界経済はおよそ2倍豊かになります。気候を安定化させるには、それをわずか6か月遅らせるだけでよいのです。

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さて、『+6℃』が、ニュートンの特集と異なるのは、地球シミュレーターによる計算結果よりも、古気候や近年実際に起きている異常気象(2003年にヨーロッパを襲った熱波など)についての話が多いということでイメージしやすい点。また、統一見解となっていない科学的知見についても盛り込んである分、雑多ながらも具体的な未来像が見える点である。
特に強調してあるのが、「ティッピング・ポイント」を超えると、正のフィードバックが働いて、地球温暖化に弾みがつくという話。北極の氷については、氷面積が小さくなれば、海中水温が上がりやすくなり、さらに氷を溶解させる、というような話は知っていたが、温度が上がると、植物がCO2を吸収する代わりに放出し始める、という話には驚いた。(3℃上昇した世界では、バクテリア有機物の分解速度を速め、植物の成長は止まる。P141)
また、地球システムの反応時間は非常に長いことから「明日から人間が温室効果ガスを一切出さなくても、地球が温暖化した状態で安定するまでには、何世紀もかかる(P134)」(つまり、地球温暖化による影響は進行する)というのも怖いことだ。
さらには、飢饉の拡大から移住を余儀なくされる「気候難民」の発生と、それを受け入れられない先進国との間に生じる紛争(P186)についても言及されているのは、悲観的というよりは現実的であると思う。
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しかし、IPCCの研究で「温暖化が2.5℃の閾値を超えると食物の純生産高が減少し、市場価格の高騰が起きる」(P186)とされていた事態は、温暖化が+1℃も進んでいない2008年時点でも、世界各地の暴動というかたちで生じている。現在、各国の国内問題であるようだが、国家間の問題として深刻化する可能性もあるだろう。
また、本の中でも繰り返されているが、度重なる森林火災は、明らかに地球温暖化のスピードを速めることになる。
北極海の氷に至っては、既に、IPCC4次報告が予測した40-50年後の姿に達しているということで、温暖化の進行は、より悪い方向に行っているのだろう。
昨今の報道を見ていると、それらの影響は、日本の場合、原油や食料品の高騰など、現実的な痛みとして、襲ってくる可能性が高い。そういう局面に至った場合、「国民一人一人の自主的な努力」というものは、より働かなくなるはずで、自分を犠牲にしてまで地球環境に貢献しようという人は相当少数であるだろう。具体的にどうしろという解を持っているわけでは勿論ないが、だからこそ、環境税を含めた政策的な動きがより重要度を増す。そして、それは、事態が進む前に準備されていなければならないと思う。
とすれば、有権者として適切な判断ができるように勉強していくことにしよう。
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というのが優等生的な答えなのだろうが、政治家が悪いのか、政治システムが悪いのか知らないが、日本の政治にはあまり期待できない。
冒頭に挙げたIPCCの第4次報告の引用を繰り返せば、「21世紀末の気温上昇は、最低で1.8℃、最高で4.0℃」。しかし、実際には、2〜3℃程度の気温上昇で正のフィードバックが始まってしまっては、もう元には戻らないだろうし、食糧危機の問題は、気温が1〜2度も上昇するより遥かに早く世界を席巻するに違いない。不安を煽るからパニックになるのか、知識を備えれば不安に勝てるのか、よくわからないが、現在が変わらず危機的状況にあることは間違いないのではないか。

*1:スティーブン・シュナイダースタンフォード大学教授、気候物理学専門、IPCC報告書の共同執筆者