Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

小一時間問い詰めたい日経春秋

ブログをやり始めの頃は、批評家ぶって、新聞記事に噛み付いていたこともあったような気がする。しかし、ある程度、続けてみると、ネタを見つけることや文章を練ることの難しさがわかってくるので、人の文章については寛容になったし、新聞記事に噛みつくことなどなくなった。多少自分と意見が違っても、気にならなくなった。(そもそも、日曜日しか新聞を読まないので、怒る記事に出くわすこと自体が少ない)
しかし、今日10/12付けの日経新聞一面コラム「春秋」(朝日新聞でいう天声人語にあたる)はひどかった。

巨人がプロ野球セ・リーグ最大の13ゲーム差という大逆転劇で連覇を果たしたというのに金融危機の深刻さに覆われてか、列島は盛り上がりを欠いた。祝勝会のビール掛けで女子アナが洗礼を受ける映像だけが狂騒曲を奏でていた。

▼かつて長嶋監督時代の巨人が1996年に11.5ゲーム差をひっくり返して優勝している。監督は「メークドラマだ。奇跡を起こそう」と盛り上げて優勝を飾り「メークドラマ」は流行語となった。今回は2番せんじの感がある原監督の「メークレジェンド(伝説)」。後世に伝えられるのか、知るよしもない。

(中略)

プロ野球は試行錯誤のクライマックスシリーズ(CS)の採用で焦点がぼやけた。巨人連覇の記憶が霞(かす)むのもそのせいだ。優勝を逃した阪神も去年の中日のように日本一になれる。かつてのような緊張は薄れた。未来に向かう活気ある時代に野球は育てられ、名勝負は生まれた。あの時代の伝説は超えられない。

「昔はよかった。今はどうしようもない。」という締め。
三丁目の夕日は奇麗だったね。それがどうした!という話だ。

そもそも執筆者が最近のプロ野球をほとんど知らないことは、メークドラマメークミラク〜メークレジェンドという流れさえ知らず、“今回は2番せんじの感がある原監督の「メークレジェンド(伝説)」”と言い切っていることでもわかる。五輪代表メンバーをほとんど知らない自分でさえ違和感を覚える部分だ。


また、「あの時代」と、ここ数年のプロ野球の流れが異なることについての認識が甘すぎる。
このことは、同じ今日の21面の、スポーツライター玉木正之氏による「今を読み解く〜プロ野球に構造変化の波」を読むと歴然としてくる。
玉木氏の記事で指摘されているプロ野球の構造変化の大きな軸は、プロ野球の「国際化」と「地元密着」である。
前者は、大リーグへの選手の流出による国内プロ野球の「空洞化」がその象徴であり、後者は「人気凋落」が騒がれる中で、地方チームが観客動員を伸ばしていることを指している。観客動員が伸びているチームとして具体的に挙がっているのは、北海道日本ハム福岡ソフトバンク千葉ロッテ東北楽天であるが、実際、仙台に住んでいると「楽天」熱を感じることがよくあるし、自分自身も、今年は3回ほどスタジアムに足を伸ばした。(ので、楽天の選手の名前だけは何人か知っている)
そんな中で、最近日本の子どもたちを相手に少年野球教室まで開催するようになったアメリカ大リーグとの比較から、(地元密着チームの人気の一方で)球界全体としてのヴィジョンのなさが、現在のプロ野球の抱える問題点として指摘されている。


この記事を読んだあとに、「春秋」を読み返すと、めまいがするほどだ。読者投稿欄でも、ここまでひどい文章は無いだろう。建設的な意見など何もないどころか、「国際化」や「地元密着」についても全く目を向けないなど、現実認識すら怪しい。そもそも、プロ野球への愛が全く感じられない。そういう「愛」の無い分野へ、過去への郷愁のみから批判して、それが「春秋」欄に載ってしまうなんてどうなんだろう。
何も得るところのない文章だったが、祝勝会のビール掛けで洗礼を受けた女子アナが誰なのか、自分にとっては、それだけが気にかかる。