Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

新型インフルエンザの正しい「怖がり方」

インフルエンザ関連の文章を読んで思ったことをつらつらと。

正当に怖がるという幻

事態が日々進行中で、そんなに呑気なことも言っていられないが、まだ日本が「水際作戦」に必死だったGW頃は、寺田寅彦の以下の言葉がいろいろなところで引用された。

ものを怖がらな過ぎたり、怖がり過ぎたりするのはやさしいが、正当に怖がることはなかなかむつかしい(「小爆発二件」)

今回の一連の経緯を見てみると、「怖がり過ぎ⇔怖がらな過ぎ」の往復運動を繰り返す日本人の国民性を痛感し、知っていれば誰もがこの言葉を使いたくなる。
しかし、この言葉を引用している記事などを読んで、やや疑問に思う時もある。
引用元でどう使われているかは知らないのだが、一番重要なのは「正当に怖がる」ことが不可能であるということのはずだ。「もっと情報提供を」とか「騒ぎ過ぎだ」とか、政府やマスコミの体制批判をすることが「正当に怖がる」ことでは決してない。

リスクの変化に応じた対策ができない日本

たとえば、GW明けの大騒ぎもあくまで「はじめ」だったので、あれはあれで仕方のないところだ。問題は、変化していくリスクに対して対策を変えていく柔軟さだろう。中西準子さんが指摘しているのは、まさにそこのところだ。

新型インフルのリスクがどの程度の大きさのものかは、最初は分からなかった。特に、メキシコでの感染者数に対する死亡者数が大きかったために、相当深刻な病気と考えざるをえなかった。

その場合、リスクが大きいと仮定して、厳しい対策を講じなければならない。しかし、今や、新型インフルに感染しても、その病状は非常に軽いことが分かってきた。つまり、リスクは大きくないことが分かってきた。

リスクの大きさは推定値なので、このように時間とともに情報量が変化することで、同じ現象でもリスクの推定値は異なる。そして、その推定値の大きさに応じて対策をたてなければならない。ここが難しいところだ。

つまり、当初はリスクは大きいと推定せざるを得ないので、後から考えると大袈裟な対応をとらざるを得ない。しかし、情報が入り、それほどでもないと分かれば、対策は緩和されるべきだ。

一方で、日本では、ここに書かれているようなリスクに応じた対策の緩和をスムーズにできない。何故できないのか、について、大きく二つの理由が挙げられている。

第一は、リスクの大きさに応じて対策をたてるという考えがないからである。また、リスクには「大きさ」があることが分からず、ただただ、危険としか捉えないからである。

第二は、危険度が小さいと言うと、何かあった時責任を追求される、危ないと言っておいた方が身の安全である、という風潮が強いからである。最も厳しい措置をとる組織や人が偉いみたいになって、競争で厳しい措置をとる社会が作られる。

そして、末端の組織にいくほど厳しくなる。国の方針を県が受け継ぎ、市が受け継ぐ、その都度、安全への忠誠度を誇示するために、厳しい措置がとられる。

また、感染者の広がりは、(内容を考えなければ)映像的には、選挙速報みたいな「お祭り」感を与えるので、テレビメディアは、どんどん伝えたいのかもしれないが、中西準子先生の言うとおり、問題は「感染」よりも、それへの「対処」であるはずだ

そういう場合に最も重要なのは、そのウイルスがもたらす病気の深刻度(重症か軽症か)によって、対策を分けるということではないか。今のように、感染自体が大問題みたいな考え方でいると、費用はいくらあっても足りない。

馬鹿馬鹿しい気持ちになってくる「感染者数」

それでもなお、事態の広がりを大づかみで把握するために便利な指標である「感染者数」は毎日のトップニュースだが、やはり解せないのは東京での感染者がいないこと。
天漢日乗さんで引用されている2chのスレでは、「金曜の東京株式市場取引終了後に発表」が有力とされている。金曜日までというのは、やや引き延ばし過ぎな気もするが、状況を鑑みると、やはり情報を抑えているのだろうし、タイミングとしても説得力がある。なお、情報を抑えている理由としては、東京が2016年の五輪候補地になっていることも影響しているようだ。
しかし、一気に百人とか千人規模で感染者が増えるようなことがあれば、東京都も厚生労働省も、マスコミも信じられない。中国が感染者を抑えて報告しているとしても、それを全く非難できない。
でも本当にありそうだから、関東抜きの感染者数をトップニュースで報道している新聞・テレビを見ていると、何だか馬鹿馬鹿しくなってくる。そんなに基本的な部分も正確なことがわからなくて「冷静に判断しよう」「正当に怖がろう」と呼びかけても全く無意味だろう。むしろ「正当に怖がることなど不可能」であることをわきまえておくべきだろう。

関東地方で感染者が「急増」する頃には、さらに対策が緩和されている頃だろうからパニックにはならないだろうが、自分も自然体かつ清潔第一で憂鬱な5月を乗り切りたい。

(参考)家族が感染したら?療養の方法は? 新型インフルQ&A