Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

鬼頭莫宏『ぼくらの』全11巻

ぼくらの 1 (IKKI COMIX)

ぼくらの 1 (IKKI COMIX)

とある夏休み――自然学校にやってきた15人の少年少女。そこで、小学生の宇白可奈を除く14人の中学1年生は、ココペリと名乗る謎の人物と契約を結んだ。その契約とは、地球を守るため巨大ロボット・ジアースに乗り込むこと。ただし、このロボットを操縦するものは、その代償として命を落とす。しかし戦わなければ、地球は滅亡する――!!

部屋の収納スペースの問題から、処分する必要が生じたので、全11巻を続けて読破。勿論、最終巻まで読んだときにそう思っていたが、改めて通読した判定の結果は「名作」。
自分の「名作漫画」(長編の場合)の基本的な条件は以下の通り。

  • 長くとも15巻以内
  • テンションが一貫していてダレ無い
  • ラストに不満が無い

メジャーどころでは、『寄生獣』も『ハチクロ』も『デスノート』も同じくらいの長さで、いずれの条件も満たす。『ぼくらの』は、これらの作品と比較すると、「エンタメ」というよりは「説教」寄りなので、人によっては、この漫画が主張することを煩いと思うかもしれない。が、説教好きな自分にとっては、心地よいバランスで大満足。
とうとう(コミックスでは)最後のクライマックスを迎えた『ひぐらしのなく頃に』もそうだが、最終的な主張だけを読めば、「道徳の教科書」的な結論だったりする。しかし、こうも物語を見せつけられると、説得力がまるで違う。11巻のラストの展開なんて、ここだけ切り取れば星新一的なブラックジョークだが、10巻までのストーリーがあるから違和感無く入ってくるし、ジョークではなく、真剣に捉えることができる。
今回1巻から改めて読むと、序盤からいくつか伏線が張られ、全体的に物語が破たんしていない(全て計算ずく)ことがわかる。敵「ロボット」の特徴も、懲りすぎないことで、物語的に落ち着きが出ているし、トーン(テンション)が一貫しているように感じた。
また、コミックス1冊ずつで追っていた時には、クライマックス間近で物語が失速する10巻にはガッカリしていたが、これまでの登場人物の家族を訪問して回る展開は、この物語には必須だったのだと思う。『ぼくらの』は、誰もが主人公であるという観点から「脇役」を拒否するところに特徴があるのだと思う。


引用したいセリフは多すぎて、どうしようかと思うのだが、特に気に入ったセリフの多い巻は、キリエの活躍する6巻とウシロの活躍する11巻(最終巻)だろうか。

  • ぼくにとっては、主人公達の死と、画面の端で描かれる群衆の死は同じなんです。(切江 6巻p48)
  • 自分は正義かもしれないけど、相手も正義かもしれない。(切江 6巻p51)
  • 私達は生まれながらにして、生命に対して業と責任を背負っているの。他者の命の可能性を摘み取らずに生きていける人はいないわ。(略)安易な生命賛美をする前に、そういうことに向き合わないと(田中 6巻p58)
  • あなたは好むと好まざるとにかかわらず、もうすでに生命の犠牲の上にある。(田中 6巻p61)
  • 全ての人間が それぞれの、主役だろ。(宇白 9巻p195)
  • ジアースのパイロットになったからって世の中を良くしたりとか変えたりとか、そんなことはできねーんだよ。そんな力はねぇ。所詮、ただのガキだ。でも、大切な人間を守る力を持っているガキだ。(コエムシ 11巻p22)

人が死ぬこと、人を殺すことについて、どこまで真面目に考える必要があるかは分からない。が、宇白の父親(教諭)が語るように、若い時代たとえば中学時代には、こういったことを考えた方がいいに違いない、と感覚的には思う。そのときに、非常に質の高い参考テキストになるのがこの漫画だと思う。
はじめは、1回の戦闘で一人ずつ亡くなるという設定は、盛り上がり重視で生命軽視なのでは?とも思ったが、良く読めば反対。生きること、何かを守るために戦うこと(ひいては戦争)について改めて考えるきっかけとなる名作。特に中学生にオススメ。