- 作者: 日垣隆
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2009/07/28
- メディア: 新書
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つい最近もTBSのプロデューサーといろいろとやり合っているだけでなく、素人相手にも容赦ない言葉がぶつけられる。勝間和代とのバトルのときには、語られている内容の真相がどうあれ、勝間さんを可哀想に思い、「にわかカツマー」になりかけたほどだ。
→Togetter - 「日垣隆氏のディスカヴァー21と勝間和代に関するツイートから派生した切込隊長らも交えたやりとり」
本書にも、結局ウソであった記事や、本当であっても取材過程が違法であったりモラルを欠くものであったりする記事や本について、個人名を挙げて指摘するような内容が出てくる。具体的には以下のようなものだが、新書に整理されているものだけあって、むしろ紳士的で、ツイッターを読んで感じるような嫌な感じはしなかった。
- 山崎朋子『サンダカン八番娼館』:取材協力者の所有物窃盗
- 鎌田慧『自動車絶望工場』:潜入取材と工場内の守秘義務違反
- 奈良少年調書漏洩事件(草薙厚子『僕はパパを殺すことに決めた』):供述調書の開示
- 江川紹子 坂本一家失踪事件に関するマルコポーロ記事:空想虚言男の発言を記事に
本書では、その他、足利事件や外務省機密漏洩事件(西山事件)等、有名な事件も通して、一線を越えてしまった取材について、次々と触れる中で、ジャーナリズムの歴史について簡単に学ぶことが出来たように思う。
このような「行き過ぎた取材」とは正反対の、記者クラブ問題や自主規制については最終章で簡単に触れられるだけでやや残念な気もしたが、本のまとまりとしてはよかった。
最後が「有料ジャーナリズムは終わっていると悲観するには、まだ早い」と、少し前向きな言葉で終わっていることもあって、全体の印象は、ポジティブなものだった。日垣隆の著作であるということを考えれば、もう少し刺激が欲しかったが、いろいろな事例を分かりやすく並べて読めるという意味で、一冊の新書として満足できる内容だった。
ところで、この本で読んで、ひとつギョッとしたのはテレビ朝日の龍円愛梨さんについて。学生時代にランジェリーパブで働いていたという事実無根の記事によって、看板番組を降板させられてしまったとあるが、Wikipediaを見ると、騒動以降はアナウンサーで無く記者として活躍されているのだという。*1
自分もあまり見ない名字と併せてランパブ騒動は覚えていたが、何となく「火の無いところに煙は立たないのでは?」と思っていたことも事実。しかし、この記事を書いた西澤孝という人物は、かつて民主党を揺るがしたいわゆる偽メール事件の情報提供者で、同様の騒動を繰り返している人だというのだ。
下世話なスキャンダルでも、当事者にとっては死活問題。誤解の対象となった龍円さんには何だか申し訳ない気持ちになった。
補足
日垣隆については、以前、自分のブログで否定的な記事も書いているが、基本的には、「信頼における文章を書く人」「プロ意識が高く、自らに誇りを持っている人」「家族を慮る人」と思っている。*2特有の罵倒芸みたいなものが、性に合わないだけだ。
上記文章では否定的に取り上げている「謝罪に必要な3つの要素」については、本書でも他の著作(『刺さる言葉』)から引用しながら書かれているところを見ると、日垣隆の持論なのであろう。
そもそも、自分なんかは、一冊の本は、70%くらいのアイデアを思考錯誤の上で100%くらいに膨らませてから書かれた方が読みやすいと思うし、大概の本がそういう風に書かれている。しかし、日垣隆の本は2000%くらいのアイデアを無理矢理100%に押し込めて出版されているので、逆に内容が一貫していなかったり、読みにくく思ってしまうのではないかと感じる。
そういう意味では、『秘密とウソと報道』は、非常にまとまりの良い普通の新書なのだ。ここら辺、編集者の人の力量にもよるのかもしれない。