- 出版社/メーカー: バンダイビジュアル
- 発売日: 2010/03/26
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カンヌ国際映画祭、絶賛!
『誰も知らない』『歩いても 歩いても』の是枝裕和監督が9年間大切に温めた愛の感動作。
空っぽな人形が「心」を持ってしまった――。嬉しくて切ない愛の物語。
あなたの息で、私のカラダを満たして…古びたアパートで、持ち主である秀雄と暮らす空気人形――空っぽな、誰かの「代用品」。
ある朝、本来持ってはいけない「心」を持ってしまう。
秀雄が仕事に出かけると、洋服を着て靴を履いて、街へと歩き出す。
初めて見る外の世界で、いろいろな人間とすれ違い、つながっていく空気人形。
ある日、レンタルビデオ店で働く純一と出会い、その店でアルバイトをすることに。
密かに純一に想いを寄せる空気人形だったが、
彼の心の中にどこか自分と同じ空虚感を感じてしまう――。
(Amazonより)
ラブドール、サイダーの瓶、コンビニのシャンプー、ファミレス、レンタルビデオ、レンタルビデオ店、この映画では、ある共通点を持つものが繰り返し画面に登場する。
共通点とは、空気人形“のぞみ”が自ら何度も口にするように「代用品」ということである。
それは「物」だけではなく、登場人物にも及ぶ。
ラブドールの“のぞみ”だけではない。多くの人が「代用品」で「空っぽ」なのだ。
したがって、作品前半部は非常に冷たいトーンを持っている。この映画を、自分はiPhoneで見たのだが、月曜朝の通勤時間に序盤を見たときは、危うく死にたいと思いかけてしまった(笑)
ただし、ペ・ドゥナ演じる心を持った空気人形“のぞみ”が、自らの生活を始める中盤は、物語全体が春の日のような暖かいトーンに変わる。
辛い出来事もありながら自らが生まれた工場を訪ね、「生みの親」である人形師のオダギリジョーと会話するシーンが印象的。
オ「ひとつ、教えてくれるかな
君の見た世界は哀しいものだけだった?
美しい、綺麗なものも 少しはあったかな?」
ペ(笑顔でうなずく)
オ「なら、よかった。」
ペ「生んでくれて ありがとう。」
オ「こちらこそ、ありがとう。行ってらっしゃい。」
ペ「行ってきます。」
そう、物語のテーマは途中から生死についての色が強くなる。
オダギリジョーとの会話場面は、“のぞみ”の興味が「自分が代用品かどうか」ではなく、「自分が生まれて、今を生きていること」にシフトしていることを意味すると思う。ここで一旦、空気が明るく変わりながらも、すぐに問題のシーンになる。
意外な展開を生む“のぞみ”と純一のベッドシーンだ。
このシーンの自分の解釈は以下の通りだ。
「あなたが望むこと、何でもしてあげるよ」と言う“のぞみ”に対して、純一がお願いをした内容に、一瞬戸惑いながらも受け入れた彼女は、切なく哀しい気持ちでいっぱいになる。。
“のぞみ”は、誰かの代用品としてでもいいから、人間として扱ってほしかった。
しかし、純一から空気を吹き込まれる度に、本当は生きていないラブドールとしての自分を直視せざるを得なくなる。息を吹き込む、命を吹き込むという、あくまで自分のエゴを満たす行為を望んだ順一に対して、“のぞみ”も自分のエゴで答えたのが、あの「行為」なのだろう。
途中、ペ・ドゥナが詩の朗読を行うシーンがある。「欠如」を満たし、満たされることが、「他者の総和」の中で生きて行くことだという。
生命は
自分自身で完結できないように
つくられているらしい
花も
めしべとおしべが揃っているだけでは
不充分で
虫や風が訪れて
めしべとおしべを仲立ちする
生命はすべて
そのなかに欠如を抱き
それを他者から満たしてもらうのだ
世界は多分
他者の総和
しかし
互いに
欠如を満たすなどとは
知りもせず
知らされもせず
ばらまかれている者同士
無関心でいられる間柄
ときに
うとましく思えることさも許されている間柄
そのように
世界がゆるやかに構成されているのは
なぜ?
花が咲いている
すぐ近くまで
虻の姿をした他者が
光りをまとって飛んできている
私も あるとき
誰かのための虻だったろう
あなたも あるとき
私のための風だったかもしれない
吉野弘「生命は」
“のぞみ”は、純一を「満たす」ことができなかった。少なくともそう思い込んでしまった。そして、自分は、純一に、いろんな人に誕生日を祝ってほしかった。自分が人形では無く、生きているものだということを認めてほしかった。しかし思いは届かなかった。
そういう後悔やエゴを、パンくずのように作品内に落としながら、映画は美しく終わって行く。
世界は、もっとギスギスしていて、決してゆるやかには構成されていない。だからこそ、カラフルな映像、美しい世界が目立つような作りをしているのではないだろうか?
比較的明確だった作品テーマに対しては、結局、ぼんやりしてしまったので、原作漫画も読んでみたいし、是枝監督の他の作品も見てみたいなあ。
補足〜キャストについて
自らのパターンを読んで「ペ・ドゥナが可愛い」という感想になることを予想していたが、全くそんなことは無かった。ラブドールからの移行が自然過ぎて、怖さが先に出てしまったためだろうか?可愛らしいシーンもあったが、キラキラし過ぎないのは、演技が巧いからなのだろうか?
「生理的に受け付けない」という表現があるが、板尾創路は、自分にとってそれに近い。(だからこそ爆笑できるときもあるのだが)
だから、『愛のむきだし』でコイケの父親として変態ぶりを発揮していた、はっきりとした悪役の役回りは心底憎らしく思えるので都合がいい。『空気人形』では、変態は変態でも、年下のコックに半笑いで頭下げるファミレス店員という、可愛そうなオヤジ役。むしろ中途半端で気持ちが悪い。もっと悪に振り切れてほしかった。
ARATAは初めて見た。抑えた演技だったが、いい人を熱演。体温低そうだが、熱血キャラとかの役もあるのだろうか?
それにしても、隅田川沿いのロケ地は、ちょっと行ってみたい。どこだろう。