Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

全然オススメしない小説〜米澤穂信『ボトルネック』

心に太陽を持てくちびるに歌を持て、などと言うが、自分にとって、物語は、第一義的には、自らを癒し、励ますためのものであると言える。逆に言えば、どんな物語も、誰かを癒し、励ますことを目的に書かれているのではないかという気持ちがある。
ところが、そういう物語ばかりではないということを、久しぶりに気づかされた。

ボトルネック (新潮文庫)

ボトルネック (新潮文庫)

さて、本作は『インシテミル』で気になった米澤穂信の作品。著作の中では、Amazonのレビュー数が最も多く、代表作ということになるのだろうか。

恋人を弔うため東尋坊に来ていた僕は、強い眩暈に襲われ、そのまま崖下へ落ちてしまった。―はずだった。ところが、気づけば見慣れた金沢の街中にいる。不可解な想いを胸に自宅へ戻ると、存在しないはずの「姉」に出迎えられた。どうやらここは、「僕の産まれなかった世界」らしい。
Amazonよりあらすじ)

あくまで「パズラー志向」の『インシテミル』の印象と、高校生が主人公の青春小説という紹介、そしてパラレルワールドへの転送というSF設定と、明るい色合いの単行本カバーから、もっと軽快な内容を想定していた。
が、当ては外れ、非常に鬱屈した重い気分が残る内容だった。それこそ、作品の舞台である金沢の空のように、晴れが少なく、暗い雲に覆われるような気分だ。*1
そもそも、『インシテミル』〜『螢』の自分の読書の流れは、ミステリの持つ爽快感を求めてのものだったが、何か全く逆の沼に嵌り込んでしまったようだ。


特に、つい先日読んだ森絵都『カラフル』が、似た設定だったことが悪い方に働いた。具体的には

  • 家庭の問題を抱え、自分の境遇を不幸だと思いこむ15-16歳の主人公
  • パラレルワールド的な世界で、自分の人生を見つめ直す試練を受ける

というような類似点がありながら、『カラフル』が最後に残すメッセージが非常にポジティヴなもので、元気が出るものであった。
ボトルネック』の作品の展開からは、どうしても明るいラストを期待してしまったのだが、それは、『カラフル』の「方程式」のようなストーリー展開の完成度が高かったため、同じ図式になるとしか思えなかったのだ。


以下、ネタばれになるが、本文中からクライマックスでの主人公の「気づき」を引用。

間違っていたのは、サキが生まれなかったこと。嵯峨野家に生まれた二人目が、サキではなくリョウだった、そのこと自体。
三日間をかけてだんだんとわかってきた、この世界のパターン。それは、全て、どんな局面でも、僕の世界よりもサキの世界の方が良くなっているということ。
(略)
本当は…。
本当は、生まれてこなければ、良かったのに。
そのことを、あらゆる角度から何度も思い知らされ続けた三日間。
P237

「生まれてこなければ良かった」「自分こそがボトルネックだ」などと、主人公に悟らせる物語を読むのは初めてかもしれない。しかも、これが(今から物事が良い方向に向かうかもしれない)序盤でなく、ほとんどラストの部分なのだ。
出版社からのコメントにあるよう

青春というのは、決して爽やかで甘いだけのものではなく、当事者にとっては辛いことの方が多いはず」だから「若さ特有の「痛々しいオーラ」が横溢する、紛れもなく「現在進行形」の青春小説

という位置づけならば、光を放つことになるのかもしれない。
ただ、冒頭に書いたように、こういう終わり方をする小説を、自分はあまり読みたくなかった。
チャレンジ精神だけを取れば、魅力的な部分もあり、米澤穂信は引き続き気になるので、他を当たってみることにする。

*1:作品の舞台となる金沢、北陸の気候については、物語を象徴するように徹底的に暗く描かれていると感じます。北陸在住の人は怒るのでは?笑