- 作者: すえのぶけいこ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/02/12
- メディア: コミック
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※Amazonのリンク先は、登場人物紹介からダイジェストまで、かなり丁寧なつくりなのでオススメ。
チカラを抜いて、空気を読んで。
あたしは上手に生きていく。
そう思ってた、あの日までは――。
姫澤さくらを頂点とするクラスの中心グループに属し、
強者として過ごしていた、今野。
だが交流キャンプに向かうときに起きたある「出来事」から
状況は大きく変わっていき――!?
2巻まで読了。*1
あらすじで示される「出来事」は、バスの転落事故。これによって、クラスのほとんどの生徒は即死し、2巻現在では、生き残りは女子生徒5名のみ。救助が来ない間、山中でのサバイバル生活を強いられるという物語。
したがって、物語の片方の軸足は、サバイバル物にある。が、もう一方は、作者の代表作『ライフ』同様、いじめというテーマにある。事故が起きる前の「日常生活」を、「非日常」の生活から振り返ることで、主人公は、自分とクラス内の状況を、少し離れた視点からより客観的に見ることができる。
興味を持った点は2点。
一点は、日常的に起きているいじめを、極端な状況を仮定して相対的に見ることは、とても有効だなと感じたこと。説明が感覚的になってしまうが、道徳に関する問題は、まともに扱おうとすればするほど、どんどん話にリアリティが無くなり、話を聞く側がバカバカしくなってしまう。小中学校時代の道徳の時間がそんな感じだった。
先生「この話は、誰が悪いのかな?」
生徒「○○君が、最初に謝れば良かったと思います。」
先生「そうですね。」
という授業中に、数人が後ろで友達の悪口を書いたメモを回しているみたいな授業だった。
結局、その退屈さは、普段と変わらない筋道の思考と、分かり切った結論によって生まれたものなのだと思う。
道徳的なテーマについて、真面目に考え(させ)るためには、普段とは違う筋道、観点が必要で、それが巧く実現できているのが、この『リミット』だと思う。
『ヒーローショー』を見た時も、この映画は高校生が真面目に暴力について考えるために見させるべきでは?と感じたが、同じ理由だ。
興味を持った二点目は、主人公の人間関係回復へのアプローチ。
バス転落事故で生き残った5人は、これまでの生活での人間関係を引きずり、素直に協力できないばかりか、極限状況の中、決定的に人間関係が悪化する。それに対して、主人公の今野が取るアプローチは、これまでの「相手とは一定の距離を保って空気を読む」生き方を棄てて、「相手のことを理解しようとする」という直球。
勿論、このアプローチが即効的ではなく、それが完全に達せられる筈はないという前提は作中で十分に示されている。しかし、このシンプルな事実(そして道徳の授業で聞いたらあくびがでる話)を、心に響くように描けているだけで、この作品には価値があると思う。
なお、最近読んだ『偏見と差別のメカニズム』*2では、偏見と差別について以下のように定義されている。
- 偏見:十分な根拠なしに、ある人びとや事物に対して抱く好悪の感情(個人の態度・意見のレベル)
- 差別:それが具体的な行為・行動として発現したもの
また、否定的偏見が弱い段階から強い段階へと移行していくにつれて発現する具体的な行為・行動を5段階に分類している。
(1)誹謗:例>陰口をいう
(2)回避:例>嫌いな子どもに近付かない
(3)隔離:例>仲間はずれ、アパルトヘイト
(4)身体的攻撃
(5)絶滅:例>ナチによるユダヤ民族大虐殺
そういった「差別」のおおもとにある「偏見」は、社会環境や家族によって植えつけられている部分もあるものの、自分たちの解釈・認識によって変えることができる。*3そのおおもとにあるのが「相手のことを理解しようとする」姿勢。
(いじめに限らず、どんな人間関係においても)実際に成果が表れるためには、大変に時間のかかる行為だが、それを諦めて、あるいは怠けて、単純な「偏見」に陥らないことが、社会を豊かにしていくのだろう。
話が広がり過ぎた。3巻に期待。
あと、実は『ライフ』は読んでないので、追っかけで読みたい。
*1:余談ですが、昨年公開の映画『リミット』にもとても興味あります!
*2:id:luckdragon2009さんのブログで紹介されていて、図書館で借りてみました。
*3:一巻で、主人公の今野は「あたしたちはもう知ってしまった/人間は平等じゃない/優劣もヒイキも差別もトーゼンある」とうそぶくが、それを分かった上で、どうその矛盾に逆らうかなのだろう。