Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

世界についてもっと知りたいと思わせる新書〜『世界紛争地図』

世界紛争地図  角川SSC新書

世界紛争地図 角川SSC新書

今回、完全に勉強エントリ。


ここ数週間、トップニュースにあったエジプトの問題は、ムバラク大統領が辞任することによって一つの区切りを見せた。ムバラク辞任後のオバマ大統領の演説は感動的だ。特に、非常に普遍的な、理想的な内容を語る以下の部分には痺れる。

信仰と信仰の間の軋みは未だに多すぎるほど世界の多くを隔てているし、
たった一つの出来事がその溝をただちに埋めることがないことも承知しています。
けれどもこうした光景を目にすると、改めて思いを新たにします。
互いの違いが私たちの全てではないのだと。
私たちは人間性を共有している。
その共通点をよりどころに自分たちを語ることができるのです。

同じ部分を原文で。

And though we know that the strains between faiths still divide too many in this world and no single event will close that chasm immediately, these scenes remind us that we need not be defined by our differences.? We can be defined by the common humanity that we share.


しかし、現実世界ではそうは上手くいかない、すなわちhumanityだけでは何も解決しないことは、歴史が証明している。
演説の中では、何度も「民主主義への移行」が唱えられ、民主化こそが皆が求める道なのだと言うことが示される。
一方で、過去の歴史から考えると、民主化と安定のベクトルが一致しないということも明らかだ。米国が求める真の民主化は「親米民主」であり、民主的な過程を経てもイランやパレスチナのような反米的なイスラム政権が増えれば、中東の力関係が変わってしまう恐れがある。(米国が支援するイスラエルの立場が悪くなる)

今回、『世界紛争地図』を読み、改めて、世界にくすぶる紛争の火種について知り、それらがある程度、共通の問題を抱えていることを知った。
一つ一つの紛争の問題点について知ろうとすれば、それぞれ新書一冊では把握できないほどの背景があるのだろうが、本書で取り上げられた31か所の紛争地帯について勉強することで、対立の構造を、俯瞰的な視点から理解することができたように思う。
例えば、少数民族自治区を多数抱える大国で、そこの独立・自治を認めると、他の地域を刺激するために紛争が生じているケース。また、国の成立過程の中で、特定民族が迫害を受けて、そこにイスラム教が関わるケース。石油などの資源が偏在する場所の取り合い。これらに、食料品の物価上昇などによって大きくなる貧困の問題が重なり合って紛争は大きくなる。


こういった国際状況について知ることは、たとえ日本国内に住んでいても、周りに住んでいるのが日本人だけではなく、日常生活が多くの輸入品で成り立っており、国の状況自体が国際的な枠組みの中に存在する以上、大きな意味があるだろう。そして、世界を、人間を理解しようと考えることは、角田光代が述べていた「今を生きる」ということに、やはり繋がるのだと思う。


以下メモ。

  • 新疆ウイグル自治区には、漢民族の移住奨励だけでなく、未婚女性を強制的に中国各地に移住させる政策がある。(中国の主張は「格差是正」のための政策)さらには、自治区内には核実験場があり、46回の核実験で死亡者は19万人にのぼる
  • フィリピンでは、16世紀以降、苦難の歴史を歩むイスラム教徒のモロ族による反政府運動が絶えない。スペイン統治時代の迫害と併せて、20世紀初めに、米国の主導でモロ族のフィリピン化(フィリピン人の移住奨励)が行われたこと等に由来する。→代表的な存在としてアブ・サヤフ。
  • 南アフリカでは、アパルトヘイト撤廃によって、安定した職についた黒人中流層(ブラックダイヤモンドと呼ばれる)は、黒人の1割未満に過ぎず、貧困層は2倍となり、07年における15-24歳の失業率が50%を超える中、犯罪に走る若者も多い。
  • 資源の利権争いにツチ族フツ族の抗争が絡んだコンゴの内戦は隣国7カ国を巻き込み、「アフリカの世界戦争」と称される。
  • スーダンダルフール地方での虐殺(30万人以上が死亡、290万人以上が国内避難民となり、数10万人が隣国チャドで難民生活)は、一説によると、豊富な地下水が眠る地域からアフリカ系住民を殲滅し、アラブ系住民(スーダン政府)が水脈の恩恵にあずかろうという目論見があるとされる。

こういった世界の問題を扱った映画も多いので、折に触れて観て行きたい。

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