Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

来たるべき小規模分散型エネルギーの時代〜寺島実郎・飯田哲也・NHK取材班『グリーン・ニューディール』


NHKスペシャル「環境で不況を吹き飛ばせるか〜グリーンニューディールの挑戦〜」の内容を新書にまとめなおしたもの。
放送は2009年3月で書籍は6月発売なので、今からちょうど2年前で、2009年1月のオバマ米国大統領の就任直後。
したがって、2部構成の第1部(アメリカ編)は、オバマが中心的に取り上げられるのだが、一方、第2部の日本編で取り上げられる内閣総理大臣は、何と麻生太郎
麻生さんが首相だった自体は、かなり遠くに思えるが、民主党政権になってからまだ二年経っていないことに今さらながら驚く(鳩山さんが266日、菅さんは現在約11ヶ月)


本書は、オバマ旋風が吹き荒れた時期につくられたこともあると思うが、米国をベタ褒めして、返す刀で日本を酷評という内容になっている。
読んでみて改めて感じたのは、何かを変えようとするときの米国の決断と行動の速さ。先日のビン・ラディン殺害時のオバマ大統領の声明にあった「アメリカがその気になってやると決めたことは何でもできるのだと、私たちは今夜改めて実感しています。」という精神が、グリーン・エコノミー*1でも一貫して存在している。
第二部で紹介されるのが、日本の経産省環境省の全く連携しない環境政策で、スピーディさの欠片もないことを見ているので、こういった部分は、本当にアメリカが羨ましい。


さて、グリーン・ニューディールの紹介は、太陽光、風力、ファンドなども取り上げられているが、やはり中心は「スマート・グリッド」。各家庭で取り付けたスマート・メーターによって、省エネ意識が働きやすくなるなどという効果もあるが、将来的には「小規模・分散型」の自然エネルギーの普及に役立つという目論見がある。
そのときに電力網と併せて中心的な役割を果たすのが蓄電池。本書では、東京大学工学部システム創成学科の宮田秀明教授の「リチウムイオン電池を、環境とエネルギーのインフラに」という言葉が紹介されている(p130)が、調べてみると、いろいろなことが分かった。

スマートグリッドと蓄電池

スマートグリッドと蓄電池の関係は、以下が分かりやすい。

スマートグリッドの関連で蓄電池と言うと、太陽光や風力などの再生可能エネルギー発電を展開する際に出力のふらつきを吸収する、いわゆる系統安定化の用途を想定するのが普通です。太陽光や風力は太陽まかせ、風まかせのところがありますから、電力を安定的に供給することができません。企業や一般世帯の電力需要は再生可能エネルギー発電の出力がどうあろうと、ある意味で安定していますから、その差を埋める、別な言い方をすればふらつきを吸収する措置が必要になります。

もともと、今年2011年は、東日本大震災の発生前から「家庭用蓄電池元年」と呼ばれ、取り組みが本格化するとみられていたようで、上も震災前の3/7の記事だ。

住宅と自動車と蓄電池

電池については、もともと自動車とのつながりが非常に強い。
電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド(PHV)は、もともとリチウムイオン電池に電気を充電するものだから、電気を貯めるのは蓄電池と同じ。貯めた電気を非常時や電力使用のピーク時に使えるようになれば、一石二鳥となる。

トヨタ自動車は2014年に出す次期モデルから主力車「プリウス」を家庭用電源で充電できるプラグインハイブリッド車(PHV)に全面的に切り替える。価格を現行モデル並みとし幅広く需要を開拓する。(略)
トヨタグループは次世代送電網(スマートグリッド)の整備をにらみ、エネルギー自給型の住宅事業も計画。太陽光で発電した電気をPHVの蓄電池にためて、電力を安定供給したり非常用電源に使ったりすることも想定しており、多面的なエコカー戦略を展開する。


ただし、駆動用バッテリーや太陽光発電による電力が家で自由に使え、余ったら売ることのできる仕組みが確立しないと、スマートグリッドと蓄電池の組み合わせが上手く行ったことにはならない。そこで、「DC家電」の研究も進められている。

EVの駆動用バッテリーを住宅用蓄電池として利用する「Vehicle to Home(V2H)」の実証実験も始まっている。一方、EVの駆動用バッテリーからの電力と太陽光発電で発電した電力を、直流のまま使用できるDC家電は、電力の利用効率を高める技術として注目されている。


こういった蓄電システムを組み込んだ住宅を、各住宅メーカーがシェア拡大のために、開発しているという。また、そのための蓄電池はEVからの「お下がり」を貰うというのもコスト縮減のポイントとなっている。

大手住宅メーカーが住宅用の蓄電システム開発で競い始めた。電気自動車(EV)が使い終えたリチウムイオン電池を再利用することで、100万〜200万円と高くなる見込みのシステム価格を低減、低迷する住宅需要を掘り起こそうとの狙いだ。廃電池の受け皿構築は、自動車メーカーにとってもEVの低価格化につながるメリットがあり、各社が協力作業を加速させ始めた。


現在は、揚水式発電所が、原子力発電所の余剰電力の蓄電システムとして働いている状況だが、これを小規模に分散させ、さらには、発電所まで小規模に分散させるというのが、「明るい未来」のエネルギー像なのだろう。そういう意味では、自然エネルギーと電池の開発はタイヤの両輪。
ただ、スマートグリッドによる新しい時代に進むために必要な「スマートさ」が、いまひとつ現在の民主党政権に欠けているように見えてしまうのが不安だ。


そういえば、自然エネルギーといえば「石油を作る藻」(オーランチオキトリウム)とか、実際の所、どうなんだろうか。興味ある。

*1:オバマ大統領は、弱者救済のニュアンスのあるグリーン・ニューディールという言葉を使わず、グリーン・エコノミーを使っているそうだ。