Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

80年代の空気漂うジュブナイル〜新井素子『グリーン・レクイエム』

グリーン・レクイエム (シリーズ本のチカラ)

グリーン・レクイエム (シリーズ本のチカラ)

子どもと一緒に行った図書館で児童用書棚を眺めていたら懐かしいタイトルを見つけ、20年ぶりくらいに再読しました。
Amazonの紹介は以下の通り。
短い時間で読める作品ながら、SF要素はしっかりあり、読み返してもやっぱり面白い作品でした。

信彦が七つのときに出会った緑の髪の少女。十八年後、信彦が公園で見かけた、陽のあたるベンチに坐っている明日香がその少女にそっくりだった…!
緑の長い髪をもつ明日香と、彼女を愛してしまった信彦。明日香の正体は?二人の恋の行方はどうなるのか…?!
美しいピアノの調べにのって展開する切ないラブストーリー。小学校高学年から。


今回手に取った本は、児童向けのシリーズ(シリーズ本のチカラ)として刊行されたものですが、ジャケ買いしたくなるくらい、装丁が美しいです。表紙だけでなく、本文中にもいくつか挿しこまれるイナアキコさんによるイラストは、物語のイメージを壊さず、好みも分かれないでしょう。
しかし、自分にとっての『グリーン・レクイエム』は、こちら↓の表紙であり、若い文体と少女漫画的な表紙、そして新井素子ブランドが、メルヘンなかたちで化学反応を起こして、作品の魅力を倍増させていたように思うのです。

グリーン・レクイエム (講談社文庫)

グリーン・レクイエム (講談社文庫)

つまり、今回読み返してみて、覚えていたよりも若干のっぺりした印象を持ちました。
特にラストに向けた盛り上がりは、もう少し、「ポニョ」的なガラガラドッシャーン!があっても良かったと思うのです。少年と、人間ではない少女とが一度出会い、その後再会して始まるラブストーリーという流れは、完全に『崖の上のポニョ』と一致しているだけに、そこが不満でした。


また、終盤に、明日香が、無言で煙草を吸っている信彦に、おどおど話しかける会話シーンがありますが、そこにとても時代を感じました。強い男性に女性が黙ってついて行く構図は、松田聖子の初期作品群のイメージと共通します。例えば『グリーン・レクイエム』の発表された1981年とほぼ同時期の「赤いスイートピー」(1982年)の歌詞世界とも似たシチュエーションであり、現代の小説や歌詞ではあまり出てこないシチュエーションなのではないでしょうか。

四月の雨に降られて 駅のベンチで二人
他に人影も無くて 不意に気まずくなる
何故 あなたが時計を
チラッと見るたび 泣きそうな
気分になるの?

ただ、松田聖子が「ぶりっ子」と揶揄されたように、当時でも現実にはこのような女性はおらず、そういった「ぶりっ子」ぶりも含めて、新井素子が支持されたのかもしれないと思いました。


なお、Amazon紹介分にも「小学校高学年から」とありますが、Wikipediaによれば、この作品が、いわゆるジュブナイルというジャンルのど真ん中に当たることが分かります。ここでは、新井素子の名前が書かれていませんが、多分、時代的な流れ(ブーム)があったのかもしれません。

ジュブナイル」の本来の意味は少年期で、日本では児童あるいはヤングアダルト向け作品の呼称として使われている。日本でとくに使用される語であり、ある種の和製英語である。ジュブナイルと銘打たれる作品は出版社によっても異なるが、10代後半 - 20代前半のいわゆるヤングアダルト文学の中でも、SFやミステリのようなジャンルの小説に対してのみ用いられる場合もある。事実上ライトノベルという言葉に置き換わったジャンルであるため、70 - 80年代にのみ使用された歴史的用語として認識されている節もある。