Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

「解釈する」「伝える」「声に出す」朗読の魅力〜片山ユキヲ『花もて語れ』

テレビブロスの漫画紹介コーナーで初めて知った「朗読」漫画です。
3巻以降の展開が本当に気になる、そんな作品です。

花もて語れ 1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

花もて語れ 1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

花もて語れ 2 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

花もて語れ 2 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

読書観を変える漫画。

声に出して本を読む。
それは、本が持つ本当の面白さと出会うこと。
声が小さな佐倉ハナが、「朗読」の大きな魅力と出会う。
癒やし系で熱血な物語。

裏表紙に書かれている通り、本が持つ面白さについて≒読書観を大きく変える力を持った本だと思います。(ブロスの記事でもその部分が強調されていました)
特に、1〜2巻で、宮沢賢治の「やまなし」の朗読を軸にした話は素晴らしいです。
自分は、小学校の国語の授業で扱ったことがある程度の知識で、「クラムボン」や「かぷかぷ」は言葉の響きの面白さ、という程度の解釈でしたが、そんな薄っぺらい理解は吹き飛ばすほどの迫力と破壊力があります。
「やまなし」という元の作品の魅力は当然ありますが、その魅力を伝えることに、主人公は朗読という手段で、作者(片山ユキヲ)は漫画表現という手段で、全力を尽くしていることがわかり、読者も真剣に作品と向き合うことになります。また、その全力度合いの凄さから「熱血」と語られることが多いのでしょう。
宮沢賢治「やまなし」という話の「本当の面白さ」を味わうためだけにも、この漫画は読んでおいて損はありません。序盤にして既に物語のピークに達してしまったのでは?そんな危惧を覚えるほどの盛り上がりです。

伝える、ということ

そんな「作品を味わう」という、いわば受け身のテーマと併せてもう一つの柱となっているのは、もっと主体的な「伝える」というテーマです。
主人公・佐倉ハナが小学生の頃、初めて朗読の面白さを教えてくれた折口先生の言葉に、それは端的に表れています。

「朗読」が声で届けるのは、自分の思いじゃなくて、作者や登場人物の思い。
ハナちゃんが「ブレーメンの音楽隊」の作者や登場人物の思いを伝えたい、と思えば、きっとみんなに伝わるはずさ。
そして作者や登場人物の思いがみんなに伝わった時、
それは読み手であるハナちゃんの思いが、みんなに伝わったってことだ!
なぜなら、いくらそれが登場人物や作者の気持ちでも、自分の中にまったくない気持ちは込めることができないからね。


その後、第二の師匠である藤色先生に「聴き手に伝えなくてはいけないのは、読み手の気持ちではなく、作者や登場人物の気持ち。」と語らせているように、読み手の気持ちは主ではなく従ではあるというのが作品のスタンスではありますが、そこはやっぱり漫画。当然、主人公・佐倉ハナが、朗読対象に込める気持ち(と、そのエピソード)にスポットライトが当たります。
したがって、「ブレーメンの音楽隊」「やまなし」「ぼろぼろな駝鳥」(高村光太郎)を題材にしたエピソードは、どれも、

  • 読み手・佐倉ハナの気持ち(エピソード)
  • 作品のメッセージ(読み手が解釈している必要)

が絡み合うことで、『花もて語れ』を作りあげています。
強く主張するタイプの人間ではなく、人づきあいが苦手で口下手な佐倉ハナが、朗読を通して、「人に伝える」ことの喜びを知る、それが、この漫画の最も重要なテーマなのでしょう。


一方で、話をよりドラマチックにするために、故意に、そのメッセージに対して心が動かされる素地(過疎、引きこもり)を、朗読を聴く側に持たせているのは、ややご都合主義な話に見えてしまうので、今後、その部分をどう打開していくかは気になります。

朗読の魅力とは

ただし、上に挙げた『花もて語れ』の魅力は、朗読の魅力を伝え切れていない部分があると思います。
これについては、1巻の帯に書かれた坂本真綾さんの推薦文が全てを語っていると思います。

朗読の魅力は人間の声に宿る不思議なエネルギー。声はひとりひとりみんな違う。声には色や、匂いや、重さがある。そして力がある。自分の声が好きでも嫌いでも、誰もが世界にひとつの特別な声の持ち主なんだ。読みながら、改めてそんなふうに思いました。

つまり、作品解釈や、作品に込める思い以上に「発声」こそが最も焦点を当てるべき部分だと思うのです。*1
2巻まででは、ほとんどこの部分に触れられていないのが残念です。


そういう意味では、最高の盛り上がりを見せた「やまなし」の話は、“作品解釈”の観点で面白いのであり、“朗読の魅力”とはやや異なるように思うのです。また、2巻で主人公の親友(もしくはライバル?)となる佐左木満里子に語らせているように、朗読は「正しい解釈」を、読み手が聴き手に「押し付ける」ものではないのでしょうが、「やまなし」の作品解釈が鮮烈すぎて、あまり説得力がありません。(これしかない正解を見せつけられているのです)
とはいえ、まだ話は序盤ですので、3巻以降、折口先生との再会、全国朗読大会などの話と絡めて、この作品が、どのように朗読の魅力を伝えていくのか、とても楽しみです。

(補足)聴く朗読

先日のスゴ本オフ(ジュブナイル特集)で、自分が紹介したのは、宮沢賢治銀河鉄道の夜』の朗読CDでしたが、「聴く」という観点からの朗読の魅力は、やはり「直線性」だと思います。黙読は、朗読に比べてスピードが速いものの、基本的に、先読み、読み飛ばし、読み直しを繰り返すもので、一本道ではありません。それに対して、朗読には、黙読にはない「直線性」があり、聴く側は、それを強いられるからこそ緊張感を持ちつつ、イメージを組み立てながら、読み手に追随するしかないのです。
そして、そういった緊張感を持ちながら聴く岸田今日子の『銀河鉄道の夜』は、描かれていない表情さえ伝わってくるようなイメージ喚起力を持っており、それは岸田今日子の作品解釈以上に、技術的な側面(声色、演じ分け)に支えられていると思います。
このCDは、残念ながら漫画『花もて語れ』単体では、絶対に得られない朗読の魅力を存分に味わうことができます。とてもオススメです。(おそらく図書館に置いてあるケースが多いと思いますが、新潮社のHPでも販売されています。Amazonは取り扱いがありません。)

(蛇足)4歳娘が読む『しろくまちゃんのホットケーキ』

結局、坂本真綾さんの推薦文の言葉に尽きると思います。ひとりひとりの声それぞれに魅力があると思います。うちの夏ちゃんの朗読も大したものだと思います(笑)

しろくまちゃんのほっとけーき (こぐまちゃんえほん)

しろくまちゃんのほっとけーき (こぐまちゃんえほん)

過去日記

*1:逆に言えば、通常、重きを置く身体的な部分を敢えて扱っていないからこそ、この漫画の独自性が強くなっているということもできます。『ガラスの仮面』が、常に身体的な部分で「演劇」を語るのとは大きく異なります。