Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

表紙だけで☆3つ加算〜長薗安浩『あたらしい図鑑』

あたらしい図鑑

あたらしい図鑑

“ジャケ借り”です。
近くの図書館の児童書コーナーで見かけて、美しい表紙と“あたらしい”というキーワード*1に惹かれて手に取りました。
スピン(しおりの紐)が挟んである部分を開くと、いきなり【精液】【生殖器】【有性生殖】などの言葉を、主人公が辞書で引くシーンが現われて、ちょっとドキッとしました。あさのあつこ等と一緒に並べられている、いわゆるヤングアダルト扱いの棚になるのかもしれませんが、心の準備ができていなかったので(笑)たじろぎました。


物語はシンプル。
捻挫で野球部を休んでいる主人公の中学一年生・五十嵐純と、病院で出会ったおじいさん、詩人の村田さんとの、ひと夏の心の交流を描いた作品。
中学一年生の夏、純君は、村田さんとの出会いをきっかけに、「言葉」に興味を持ち始めます。言葉で表現されるものの一々に辞書を引き、言葉にならないものに強く思いを寄せながら、精神的にも成長して行きます。
そうした内面の成長が、一ヶ月で2cmも身長が伸びるという、この時期にしか経験しえない肉体的成長と併せて書かれているのが上手です。特に、主人公が、足の裏にギブスをはめて偏平足を矯正しているというシチュエーションは面白く、本を読みながら何となく足の裏の感覚が気になったのでした。
こういった場面からは、眼に見える「成長」こそが、若さでもあり、良い意味で「成熟していない」部分なのだと気づかされました。逆に言うと、眼に見える成長を意識さえすれば、何歳になっても若さを保てるのかもしれません。自分の周りにいるポジティブな人達のことを思い出し、そう思いました。
「あたらしい図鑑」というのは、言葉にならない感情を、もやもやした思いを感じたものを貼り付けておくスケッチブックのことで、純君は、村田さんの「あたらしい図鑑」を読み、自分でも、スケッチブックに、いろいろなものをスクラップすることになります。そのうちのひとつが表紙に描かれるひまわりであり、主人公の初恋のモヤモヤ感を表したものなのですが、本当に、恋の始まりの部分、新芽の部分という感じが瑞々しくて、心がうきうきしました。
いくつか引用される詩は、自分にとっては、特に強く心を動かされるものではありませんでしたが、中学一年生の感性の瑞々しさが、すばらしい表紙を通して伝わってくるような、そんな一冊でした。


それにしても「ジャケ借り」ではなく、景気よく「ジャケ買い」したいですね。
図書館で済ませてしまい、申し訳ありません。

*1:オリジナル・ラブ「あたらしいふつう」やキリンジ「あたらしい友だち」など、「あたらしい」というキーワードが入る曲を最近いくつか聞いたので。