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好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

ユーモラス闘病記?じゃないだろ!〜大野更紗『困ってるひと』

困ってるひと

困ってるひと

話題の本なので未読で気になっている人は、どんな本?と人に聞く前に、是非読んでしまうことをオススメします。自分自身、どんな本?と聞かれたときの答えを持っていないのです。
実際、読後に見かけた本屋のポップに「ユーモラス闘病記」という惹き文句がつけられており、とてつもない違和感を覚えました。
そもそも「闘病記」という言葉すら、この本には似つかわしくありません。大野さんが闘った、いや闘っているのは、“病気”という内なるものだけでなく、“法”や“制度”という社会的なもの。そして日々の担当医とのバトルが常に繰り広げられているので、「病と闘う」という枠から外れているように感じました。
ましてやポップで使われる「ユーモラス」という言葉選びには唖然としました。この本で語られていく症状の進行、特に、後半部に“おしり大虐事件”として語られる部分は、まさに常軌を逸した状態。大野更紗風に言えば「エクストリーム」な、この状態を、「ユーモラス」という言葉で括れるほど、自分には心の余裕が持てませんでした。それこそ、他の闘病記を読むときのように、自分だったら…等というツッコミを一切することなしに、ただひたすら進行して行く事態を眺めることしかできないのでした。


さて、「ユーモラス闘病記」以外の言葉で、自分なりにムリヤリ括るとすれば、この本は「長く短い劇的な日々」と作者本人があとがきで振り返るように、ある難病女子の、とても濃密な行動記録です。
大野更紗さんは、2008年秋に本格的に症状が悪化し、複数の病院を渡り歩いたのち、数ヶ月にも及ぶ地獄の検査の結果、2009年11月にやっと難病(皮膚筋炎/筋膜炎脂肪織炎症候群)という診断が下ります。大学生活から発症に至るまでについても序盤で取り上げているものの、基本的には「オアシス」と呼ぶ大学病院での入院生活に多くのページが割かれます。自分の抱く入院のイメージは、自分からは何もできず、ひたすらに受け身で暇を持てあますというもの。ましてや、抱えている病気が重いものであれば、「安静に」を合言葉に何も動かなくなる可能性すらあります。
しかし、大野更紗さんは「攻め」の姿勢を崩さない。途中、文字通り、体が動かなくなったり、薬のせいで、精神的に暗黒面に落ちる場面もありますが、あまり引きずらない。
ポジティブというのとは違います。怒ったり泣いたりのネガティブ思考が、(おそらく控えめに抑えているはずの)この本の中でさえ多く現われているからです。
むしろ、ネガティブな思考も、行動を起こすためのエネルギーに変えて行く。そうすることでしか生きられない。そのような決意に満ちた内容でした。
そもそも、大野さんは、自分とは違う生き物なのか?それとも、ここまでの病気に罹れば、人は誰でも彼女のような心境に達するのか?と考えてしまうほど、「闘病記」ではなく「偉人伝」を読んでいるような感覚に陥りました。


一旦締めます。文章自体は、確かに「ユーモラス」とも言え、人によって好き嫌いはあると思いますが、誰にでもオススメできる一冊です。
(続く予定)