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戦場でも趣味を捨てない男たちの物語〜山田芳裕『へうげもの』(1)

へうげもの 一服 (講談社文庫)

へうげもの 一服 (講談社文庫)

武か数奇か。大人気コミック待望の文庫化!織田信長から壮大な世界性を、千 宗易から深遠な精神性を学んだ「へうげもの」、古田左介。立身出世を目指し ながら、茶の湯と物欲に魂を奪われた男の物語。(Amazon


山田芳裕漫画は『デカスロン』以来だが、この人の描くキャラクタの表情は、一つ一つがいい!
ライムスター宇多丸が、楳図かずお漫画の恐怖の源泉は、登場人物の「ひぃっ!!」という恐怖の表情にあると言っていた*1が、山田芳裕漫画の核心も、登場人物の表情!!主人公・古田織部(佐介)が見せる目を丸く見開いた驚愕の表情に、読者も一緒になって驚き、興奮する。
第一回の両開きの大ゴマを使った爆発シーンなんかがそうだが、『へうげもの』のテーマに近いものとしては、第四回での見開きが衝撃的。一度しか面識のない千宗易(利休)に招かれた茶室に入ると、そこに「宇宙」*2を見るのだ。
なお、茶室でのやり取りから織部は利休に心酔し、弟子となる。

この人は…人間としても俗物としても、はるか上をいっている…!


ここでいう「俗物」という表現は、好きなものを追求する「数奇物」としての貪欲な姿勢で、別のシーンでは「業」とも示される。この時代の人間だから、織部は「武人」然としてふるまうべきところを、「数奇物」の自分がそれを許さない。大雑把にいえば、仕事に生きるか趣味に生きるかを、戦場で悩むのが『へうげもの』の魅力だ。
そして、利休以上に、「数奇物」としての織部を育てたのが、織田信長。全ての登場シーンが「数奇物」としてカッコいい。常に奇抜な格好で現われ、織部を、そして読者を驚かせ続ける。さて、2巻は本能寺のシーンとなるが・・・。


文庫版巻末は、へうげものファンの著名人インタビューで一巻は中谷美紀講談社文庫の表紙なので、外からぱっと見では漫画を読んでいるようには見えないこともあり、文庫版は特にオススメです。

*1:シネマハスラー『おろち』評を参照

*2:「茶室」に「宇宙」を見るからこそ、この回のタイトルが「茶室のファンタジー」となっている。へうげものの各回のタイトルは、名曲タイトルに因んでいる