Yondaful Days!

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古典部の存在自体がミステリ〜米澤穂信『氷菓』

氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)

いつのまにか密室になった教室。毎週必ず借り出される本。あるはずの文集をないと言い張る少年。そして『氷菓』という題名の文集に秘められた三十三年前の真実―。何事にも積極的には関わろうとしない“省エネ”少年・折木奉太郎は、なりゆきで入部した古典部の仲間に依頼され、日常に潜む不思議な謎を次々と解き明かしていくことに。さわやかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリ登場!第五回角川学園小説大賞奨励賞受賞。


今年7月に行われたスゴ本オフ@ジュブナイルで推薦されていた本。
インシテミル』『ボトルネック』で強烈な印象を残した米澤穂信。その代表作とも言われる古典部シリーズの第一弾ということで、かなりの期待を持って読んだが、結論を言えば、少し地味な印象。デビュー作ということで、まだ弾け切れていないのかもしれないが、前に読んだ2作では感じたアクの強さは無かった。


地味な印象を持ったのは、前二作との比較からだけではない。

  • 高校生男女が探偵役となる
  • 高校入学後、文化系の部活に入ってから話が展開
  • 主人公達以外も、登場するのは文科系部活の人間が多い
  • 殺人は起きない。学校内で起きたいくつかの謎(ミステリ)を解く

一言でいえば「ありがち」の設定なのかもしれないが、初野晴『退出ゲーム』のハルチカシリーズと似る部分が多い。しかも『退出ゲーム』は、ド派手で、各短編に目を引くギミックが入っている。4割くらいは史実に基づいていると巻末で作者が解説する本作は、それよりもずっと地に足がついた物語なので、「地味」に映るのは仕方がないとも言える。


物語の中心になる謎は、以下の通り。

  • 33年前、ヒロイン千反田の叔父(古典部OB)に何があったのか?
  • 古典部の文集のタイトルは何故『氷菓』なのか?
  • 神山高校の文化祭は何故「カンヤ祭」と呼ばれるのか
  • そもそも古典部は何をする部なのか?(笑)

物語を読む中で、前半3つの謎が次第に浮かび上がり、ラストで全部回収するかたちになっているが、個人的には、謎解きがあまり美しくなかったのが残念。また、手紙と電話だけで登場の主人公の姉、全く登場しない顧問*1、結局、古典部とは何か(笑)など、この巻だけでは完結していない事項も多数あることから、この一冊だけではなく、シリーズの第一巻として捉えたい。一冊としてなら、同じシリーズ一作の『退出ゲーム』に軍配が上がる。
ただ、主要登場人物4人*2は、みんな特徴があり、第二弾以降には期待が高まる。


なお、この後、また同じような設定の本を読み始めており、既に混同している。特に脇役部活はごちゃごちゃになりそうだ。(このシリーズでは、壁新聞部、漫研手芸部が次以降も登場しそう)

*1:「神山高校50年のあゆみ」によれば、顧問と同姓のOBが、1年生のときに事故死しているが話の中で触れられていない。P57

*2:折木奉太郎千反田える福部里志伊原摩耶花:4人とも“濃い”名前だが、千反田えるというのは、また凄い名前。キラキラネーム?