Yondaful Days!

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カタルシスを拒否する小説〜麻耶雄嵩『神様ゲーム』

神様ゲーム (ミステリーランド)

神様ゲーム (ミステリーランド)


(注意)直接的ではありませんが、ややネタばれありです。

レーティングをつけるとすれば・・・

iPhoneアプリを買うときにレーティングがついていて、うちの子にはiPadのゲームをやることも許しているので、アプリのゲームを買うときは常に確認している。
例えば、先日遊んだMYST的謎解きゲーム『The Lost City ロストシティ』は「4+」ということで、子どもが遊んでも大丈夫だが、同じ会社が出している別のゲーム『The Secret of Grisly Manor』は「9+」がついているので、9才以下のよう太には不適切かもしれないということになり、実際ダウンロードしていない。

  • 4+:このカテゴリのアプリケーションには倫理的に好ましくない内容は含まれていません。
  • 9+:このカテゴリのアプリケーションには暴力的表現を含むアニメやファンタジー、あるいはリアルな暴力的表現、また成人向けの内容、露骨な表現、ホラーを題材にした内容が含まれている可能性があるため、9才以下の子供に不適切と見なされることがあります。
  • 12+:このカテゴリのアプリケーションには乱暴な言葉遣い、暴力的表現を含むアニメやファンタジーあるいはリアルな暴力的表現、また、成人向けの内容や露骨なテーマ、擬似ギャンブル等の内容が含まれている可能性があるため、12才以下の子供に不適切と見なされることがあります。
  • 17+:このアプリケーションを購入するには17才以上である必要があります。 このカテゴリのアプリケーションには乱暴な言葉遣い、暴力的表現を含むアニメやファンタジーあるいはリアルな暴力的表現、成人向けの内容、ホラー、露骨なテーマ、性的な内容、ヌード、アルコール、タバコ、ドラッグなどが頻繁に含まれている可能性があるため、17才以下の子供に不適切と見なされることがあります。


さて、先日の乙一『銃とチョコレート』に続いて、子ども向けを謳っている講談社の「ミステリーランド」から選んだのがこの本。もともと、よう太に薦めることができるかどうかという視点で読んでいるので、心の中の審議委員会による「レーティング」の視点が入ってくる。
で。
この本の判定はというと、12+ かな?
とにかく、小学校低学年向きでは全くない。
そもそも猫の連続殺害から始まる話なので当然だが、「出血描写」「死体描写」「その他年少者に極度な恐怖を与える描写」*1が、やや多めで、主人公達と同じ小学4年生でもショックが大きいと思う。
そういった描写以上に問題なのは、前向きなかたちに終わらないストーリー。『銃とチョコレート』にはあった「前向き」な感じが微塵もない。これは「ミステリーランド」というシリーズの意図からも少し外れると思う。結局それは、この本で、これから述べる実験的な試みがなされているからで、それを評価するかどうかでこの作品の好き嫌いは分かれる。

「神様」ゆえに生じる状況

この作品には「神様」が登場する。
それによって推理小説ではあり得ない状況が出てくる。つまり、推理抜きに、犯人だけが明確に分かるということ。コロンボ古畑任三郎のように、語り手が犯人であれば話は別だが、そうではないのに、過程をすっ飛ばして、いきなり犯人だけが分かるという状況が生まれてくる。事件を目撃していなくても、被害者のダイイングメッセージを受け取らなくても、関係者のことを直接知らなくたって「神様」には犯人が分かってしまうのだ。


そして、「神様」からの「天誅」。
この「天誅」こそが、この小説のキモであり、最も「嫌な感じ」がする部分だ。この嫌な感じは何処から来るかを考えてみると、私たちは、罪を犯した者に罰を与えたい気持ちはあるものの、まずは順序が大事、理屈を欲しているのだということが分かってくる。
何か事件があったときに、その過程を、動機を、方法を知って初めて、加害者を特定し、彼もしくは彼女に罰を与えるという順序になる。罰を与える過程が納得ずくであることが推理小説カタルシスにつながるのだ。
しかし、今回、特にラストでは、明確に作者が「そのカタルシス」を与えることを拒否する。神様が罰を与えること、というより、「理不尽な罰」としての「天誅」が下される。
だから、その部分に「こういう方法があったか」と驚ければ、面白く読める小説だと思う。しかし、それにしたって、そのダシに使われた作品内の小学4年生たちが可哀想過ぎるので、実験精神は買うし、ミステリというのは、その構造的な部分(ルール)を壊していくのも面白さの一つと思いつつも、ちょっと評価できない。というか、「ミステリーランド」のシリーズが求めているのは何だろうか?乙一『銃とチョコレート』が子ども向けとして非常によく出来ていただけに、よく分からなくなってきた。

*1:これはCEROが定める、レーティングの対象となる表現項目→http://www.cero.gr.jp/rating.html