Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

大大大感動の「東京の街が奏でる 小沢健二コンサート第七夜」

今回のコンサート、今日、遅刻で飛び込むまでチケットを見ていなかったのですが、よく見ると6列目。実質的に前から4列目で過去最高レベルの良い席でした。オープニングがどのような感じになっていたのか分かりませんが、前説と簡単な舞台演出があってから、オザケン登場という感じだったのでしょうか。自分が到着したのは13分遅れで、オザケン登場の1分前くらいでした。


小沢健二を生で見るのは初めてだったのですが、あの独特の歌唱、ユーモアに満ちた朗読、お腹の前で小さく握るガッツポーズ、全てがチャーミング、いや、ラブリーでした。
田島貴男が語るところの「どのアーティストにも似ていない独自の世界」*1であり、なおかつ、18時半の開始から22時過ぎまで休憩を挟まず3時間半の長丁場でしたが、バランスが良く、非常に練られた構成で、長いと感じさせない至福の時間でした。

朗読

コンサートの中での「朗読」の効果は大きいと感じました。
朗読は、聴く側に緊張感を強いる部分があります。ましてやコンサートホールで座って聴く立場としては、じっと耳を澄ます以外に何もできません。しかし、この日のライブで扱った題材*2は、いずれもユーモアを含む、エッセイ的な内容でした。小沢健二は、聴き手に与える緊張感を分かった上で、ユーモアや喋るスピード、そして身ぶり手ぶりを使って「緊張」をずらす「弛緩」のタイミングを図っていたようです。そういった緊張と弛緩のリズム自体が、オザケンと観客との一体感を生んでいたと思います。また、数分間の朗読をじっと聴いたその耳で、改めて楽曲を聴くと、どうしても歌詞に耳が行き、いつも以上に意味を考えながら聴いてしまう、そういう効果もあったように思います。
そして、この形式で演奏を聴いてしまうと、今回の方がむしろ普通で、通常のライブでよく見られる、軽いMCを挟んでの5〜6曲連続演奏は、速過ぎるように感じます。朗読では「ペース」*3や「速度」*4について何度も話題に上りましたが、今回のペースで無ければ、ここまで過去のオザケン作品を味わうことはできませんでした。
なお、内容的には「believe」が一番心に響きました。

  • アメリカのスポーツでは、応援席に「believe」と書いてある
  • 信じることで力が湧いてくる
  • 日本では「信じること」「信じる者」はネガティブに扱われるが、それは大事なことだ。
  • 信じることは恋愛に似る。

というような内容が、日本では為政者が、信じることによる力を削ぐように腐心してきた…みたいな内容と絡めて話されていました。自分なんかは「何でも疑え」という意見を見ることが多かったので、「信じる」ことの大切さをあまり分かっていなかったかもしれません。

仲間

朗読「休業宣言」の中で、たった一人で仕事をしている人はいない、仕事はチームでするのだ、という話が出てきました。その言葉通り、メンバー紹介では、オザケン自身から一人一人について、名前だけでなく最近の活動についても紹介があり、雑談も交えながらそれぞれへのリスペクトを顕わにしていました。そういう姿勢は、単純に見ていて気持ちがよいものです。また、同じ「休業宣言」の中では、他のミュージシャンを批判していた20代の頃のことを反省している、なんてことも言ってたのが印象的でした。
さて、メンバーですが、弦楽四重奏とベース+コーラス(+メトロノーム)という構成です。このうちバイオリンの奥村愛さんの美しさ*5は特筆すべきものがあり、4列目だったこともあり目が釘付けでした。アルバムを何枚も出されていますが、自分の印象では、このジャケ写が一番近いかもしれません。

ポエジー

ポエジー

ベースの中村キタローさんは囃し方が上手で非常に目立っていました。一番親しみのある真城めぐみさんは、むしろあまり目立たないようにしていた感じでしたが、この二人は基本的に3時間半のほとんどの場面(朗読含む)で舞台上にいたので大変だったと思います。
そして、自分が聴けなかった前説を担当した本日のゲストはクラムボン原田郁子
最後のメンバー紹介時に舞台に出てきて、「僕らが旅に出る理由」をオザケンと一緒に歌ったのですが、しじゅう恐縮しきりで、とても可愛いらしかったです。本当はもっと大きな歌声が聴きたかったのですが、遠慮の塊がステージの上に立っている感じでした。最後にオザケンがハグしたら、漫画みたいに、ピューッ!て舞台袖に消えて行ったのがまた良かったです。
これだけの仲間に囲まれて、なお圧倒的な存在感を保つ、オザケンの存在はやっぱり凄いし、だから逆にサポートメンバーへの愛情が嬉しく思えたのでした。


オザケン

オザケンの歌は上手い下手で言えば「当然下手」と思っていましたが、今回これを改めました。
あの独特の歌い方の範疇では「ものすごく上手い」です。本人がインド映画の、「ついていけない」と思うほど独特の感じに惹かれるという話をしていましたが、まさにオザケンの歌唱に当てはまります。あの「独特な感じ」を抜いて、通常の意味で「上手い」方向へ転換(転向)したら、それこそ、魅力半減です。
あとは、楽しそうに体を揺らし、足を踏みならして、髪をかきあげ、青筋を立てて懸命に歌う姿は、見るものを元気づけますよね。朗読では「信者」ということばを挙げて、日本では「信じる」ことをネガティブに捉える傾向があるなんてことを話していましたが、自分はしばらくオザケン信者です。


そして、やっぱり歌詞です。オザケンの歌は、恋愛以降を夢想する歌が多いのが、この年齢になってもグッとくる理由なのかもしれません。「東京恋愛専科・または恋は言ってみりゃボディー・ブロー」とか最高です。

それでいつか僕と君が齢をとってからも
たまにゃ2人でお出かけしたいよ 「行きましょ」なんつって腕を組んで
それでいつか僕と君が齢をとってからも
恋の次第を憶えてたいよ 七色に 輝くすてきな
ナイト・アンド・デイ つづくのさ

あとは、「それはちょっと」も泣けました。(金婚式やお葬式まで行ってしまう…)
それ以外の歌も、馴染みの曲も新曲も、上に挙げた朗読効果もあり、かなり歌詞を噛みしめて聴くことができました。

まとめ

オペラシティという特殊な場所だったことも影響して、忘れられないコンサートになりました。
本当に来て良かった。来年もあれば是非行きたいです。

*1:田島貴男さんと同じ日に見ることができたのはファンとして非常に嬉しいですね。→田島さん感想(ツイッター、ブログ)

*2:「休業宣言」「メトロノーム」「小走り」「believe」「大人という感じ」「(インド映画と130グルーヴ)」・・・

*3:休業宣言するほど、仕事から抜け出したくなる根本的な問題は、ペースが異なること。決算のタイミングに合わせて仕事をするのが本当にいいのか。

*4:「豊か」は、ゆったり、ゆたゆた、たゆたう、悠々。「急く」は、あくせく、せかせか、せこい。お金が無くても「豊か」に生活している人がいる。

*5:他の方も美しかったです。真城めぐみさんも大好きです。若いですよね。