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効率的に展開して行く物語〜浦沢直樹『MONSTER』(5)〜(6)

Monster (5) (ビッグコミックス)

Monster (5) (ビッグコミックス)

少し長い漫画の感想を区切って書いているのは、実は、少し時間を置いてしまうと話を全く思いだせないため。MONSTERは、展開の早い(効率的な)漫画なので、特にそれが危惧される。記憶力の良い人には分からない経験だろうが、後から何か1シーンだけを確認しようとして全巻読むことになったりすると最悪だ。それを避けるという意味では、ゲームでいうと「セーブ」に近い。
何はともあれ少しずつセーブだ。


以下5巻と6巻の話を実況中継的に。

  • テンマの大学時代の同級生である犯罪心理学者ギーレンが登場する5巻最初の3話と、テンマとディーターがヒッチハイクで老夫婦にフライハムまで連れて行ってもらう4話目は、物語全体の流れとは無関係。ただ、どちらの話においても、登場人物によって、テンマが犯人ではないことが念押しされる。これはルンゲの推理を否定し、読者に安心を与えようとする作者の親切心なのかもしれない。
  • 変わって5〜7話目は、ニナの話。ニナの育ての親を殺した犯人と一緒になって、ヨハン一味であるロベルト達と対決する。
  • そして8〜9話目が、ルンゲvsテンマの話。テンマがニ重人格という自説に固執するルンゲの異常な雰囲気がよく出ている。そして、だからこそ、ルンゲが刺されるシーンで終わる9話目、そしてテンマが彼を救う6巻1話目は、衝撃が大きい。
  • 6巻2話〜4話の途中までが、エヴァ・ハイネマンと、ロベルトの話。エヴァは面白いキャラクターだ。圧倒的に力が無く、意地とテンマへの想いしかない。しかし、ヨハンの顔を見ているということもあり、今後も物語の鍵を握りそうだ。
  • 4話の途中から5話にかけては、ロベルトとエヴァがテンマのいるフェッセン近くの山荘に行くことで物語が動く。ロベルトを裏切ったエヴァは撃たれるも、テンマの治療を受けて命を救われる。ここではテンマと一緒にディーター、そして久しぶりにヘッケルが登場する。二度登場する「若鶏のマレンゴ風」という料理は、作中で何度も語られる「食卓」のイメージだ。
  • 6〜9話目には、上に挙げた主要登場人物が一切登場しない。良いヨハンが登場する話。


これだけ沢山のキャラクターが出て、話の舞台が移り変わっても、たった2巻なのだから、浦沢直樹の「物語を効率的に語る力」は凄いなと感動した。そして、ところどころで印象的に挟みこまれる食べものに関するエピソード。浦沢直樹もまた、「フード理論」を地で行く漫画家なのかもしれない。