Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

オリジナル・ラブのサポーター制度への熱い脱線〜こうやまのりお『世の中への扉 ヒット商品研究所へようこそ!』

児童用書籍といえども侮れない。大人向けだと一冊になりきらない分量だがアイデアは面白いという本が結構ある。よう太がよく読むパスワードシリーズの「青い鳥文庫」の裏話が読めるということで、手に取ったこの本も、なかなか侮れない一冊。今回、そこからの“熱い脱線”も含めて、面白かったし読んで良かった本となりました。


児童書は、全体的に売り上げを落としている出版界にあって、唯一売り上げを伸ばし続けている分野だという。*1これに関連して、小学生はひとり1カ月平均で10冊は本を読む(中学生は4.2冊、高校生は1.9冊)というデータが紹介されている。この数字は、5〜7冊だった1980年代と比べても多い。(「朝の読書時間」を設ける学校が増えていることが原因のひとつと分析)2011年(刊行時の翌年)の結果が以下に示されているが、ほぼ同じ数字が出ている。

芦田愛菜が1ヶ月に50冊読むという話がよく出るが、小学生全体平均でも月10冊読んでいるのなら、読書量の多い子が50冊読んでも、ありうるかな、と思ってしまう。(なお、以下に示すジュニア編集者は年間200冊=月15冊以上読む人たちが多いという)


さて、そんな中にあって、児童用文庫の「青い鳥文庫」の戦略は、読者を巻き込んだマーケティング
例えば、代表的な作品のひとつ『黒魔女さん』シリーズでは、読者からキャラクターや魔法のアイデアを募集しており、作中で使われる他、巻末で読者の名前とともに紹介される。
それ以外に、ジュニア編集者・ジュニア審査員の制度についてが面白い。HPの情報も読むと、ジュニア審査員<ジュニア編集者<青い鳥文庫ファンクラブという仕組みになっており、それぞれ以下のような役割がある。

  • 青い鳥文庫ファンクラブ
    • 会費:青い鳥マーク2枚と600円分の切手(年間)※継続は年間500円分の切手
    • 特典:(1)メンバーズカード(2)年5回のクラブ会報(3)オリジナル卓上カレンダー(4)青い鳥文庫・解説目録(5)オリジナルポストカード(青い鳥マーク3枚分)(6)ジュニア編集者への応募(7)壁紙ダウンロード
  • ジュニア編集者
    • 仕組みは以下の通り。
  • ジュニア編集者の募集は年2回、メッセージレターの紙面上で行います。はがきでご応募いただいた方の中から、抽選で100名が任命されます。
  • 選ばれた100名の方に、依頼状と名刺が送られます。
  • 任期中に1回、ゲラが届きます。ゲラを読んで、感想や意見などを編集部に送ってもらいます。
  • 仕事をやりとげたジュニア編集者には、特製図書カード(500円分)が送られます。
    • それ以外のメリットは以下の通り。
  • ジュニア編集者からの感想や意見は、著者の先生にもお渡しします。
  • ジュニア編集者の感想文は、青い鳥文庫のホームページに掲載されます。
  • ジュニア編集者が考えた宣伝文(帯コピー)が、実際の帯に採用されることも!
  • ジュニア審査員

2010年は、青い鳥文庫創刊30周年。それを記念して、「おもしろい話が書きたい!」という、小学生を読者対象とした、プロアマ年齢不問の文学賞を開催しました。
2月1日から28日までの1か月間で届いたのは、868の応募作品。いずれも「おもしろい話」を書こうという熱気にあふれていて、選考中、何度もレベルの高さにおどろきっぱなしでした。10代の応募が多く、青い鳥文庫ファンの読者は、読むだけではなく、書くことにも興味と才能を持っていることがよくわかりました。
その中からしぼった10編を、10人の編集者と全員小学生による10人のジュニア審査員とで選考しました。子どもが選ぶ児童文学賞というのはまれにありますが、子どもと大人が対等な立場で議論をする文学賞は、人類史上初めてかもしれません。


これは何か楽しそうだ!

オリジナル・ラブのサポーター制度を考える!

熱気が伝わってくると同時に、この手法は他のファンクラブにも使えるのではないかという気がしてくる。(既にこういった手法を取り入れているところも多いのでは?)

ここで例に挙げるのは、オリジナル・ラブ
音楽の場合は、編集段階で素人が関わるのは難しいが、グッズや販促活動についてならミュージシャンの本業を邪魔せずに力になれる部分があると思う。
現在、オリジナル・ラブのファンクラブ会員は、アルバムを通常販売よりも早く入手することができるようになっているが、この仕組みはファンクラブ入会を若干名に促す程度しか効果がない。例えば、ジュニア編集者と同様に、ファンクラブの中から選ばれた人のみがもう少し主体的に販促活動に関われるようにすれば、オリジナル・ラブの音楽活動をサポートすることができる。ここで、仮にそれを「サポーター」と呼ぶことにする。


自分の考えるOLサポーター制度は以下だ。

  • ファンクラブ会員の中から希望者を募り20〜30名程度を半年〜1年の任期のサポーターに任命する。
  • グッズについては、Tシャツやタオルの色、デザイン、ワンポイントの大きさや位置(バックプリントか表か/中央か左胸か)の選定について意見を述べることができる。もしくは、複数案からの最終的な多数決投票に参加出来る。
  • また、過去のグッズの復刻についても意見を述べることができる。(実際に復刻は無理だとしても、改めて、どんなデザインのグッズが人気があったのかを確認しておくべき)
  • アルバムについては、発売前にアルバムを入手することができて、その代わりに店頭ポップ用のコメントや、田島ツイート用の100文字コメントを送る義務が課せられる。
  • ベストアルバムの選曲に参加できる。


こういった仕組みを取り入れることによって以下のようなメリットがある。

  1. ファンクラブに入るメリットが大幅に増加する(会員数増加)
  2. これまで過程が見えないことで感じていた不満が減少し、ファンクラブに親しみがわく
  3. グッズが売れる
  4. アルバムが売れる


一つ目について追加すると、現在、あまり魅力的ではないファンクラブ入会へのインセンティブ(チケット優先と会報、そしてアルバム先行入手程度)が大幅に増加する。自分みたいに、ファンなのに非会員の人を会員に取り込める。


二つ目についていえば、「サポーター」という目的が明確な制度をつくることによって、イマイチ何のために存在していたのか分からなかいファンクラブ制度が意味を持ってくる。そのことにより、これまで感じていた「どうしてこうなった」的な不満が解消される。特に関わり方が難しいとは思うが、ベストアルバムの選曲作業については、以前書いたように不満を持っている人が多いはず。→過去日記を参照のこと)


三つ目について詳しく書く。先日の小沢健二のツアーで良いなあと思ったのは、終了近くのMCで、オザケンがツアーTシャツのデザインの意味について詳しく説明してくれたところ。今は、コンビニで何か買うときも“物語”を必要とする時代(例えばニュースで紹介されていた/テレビ番組で取り上げられていた)だから、物語があると断然買いやすい。逆に、付加情報全くなしで売られる商品には魅力を感じないのは当然と言える。(アンコール時に、ミュージシャンが着ていたからという理由だけでは、普通はTシャツは買わない)
本当は、田島本人にグッズ製作に携わってもらえば、その過程をツイッターで呟いてもらう程度でも売り上げは上がると思うが、おそらく音楽にしか興味がない田島には無理。現在、スタッフで行なっている作業の一部をサポーターが肩代わりすることによって、グッズにも愛着がわく。つまりグッズを買う理由が増える。なお、オザケンツアーではTシャツ2枚目からは500円引きというのをやっていたのだが、これも含めて商売上手な印象を受けた。


四つ目については効果のほどは何とも言えないが、アルバム発売前にファン目線からのセールスポイントを募っておくのは重要だと思う。特に、ポップなどで「○○(他のミュージシャン)ファンにオススメ」という一言が肩を押してアルバム購入に向かわせることはままあることなので、ポップのコメントも結構重要。また、サポーターが考えた販促用コメントをツイッターで流すことによって、店頭ポップと同様の働きは期待できる。なお、ツイッターの販促用コメントの場合は、新作以外でも採用することができる。(例えば今回のエントリと関連深い「青い鳥」を含む『キングスロード』の売上を増やすことができるツールは、こんなところにしか無いのでは?)


ということで、以上が、青い鳥文庫ファンクラブから考えた、オリジナル・ラブの「サポーター制度」導入について。これまで、ファンクラブに入るメリットとして、ファンクラブ限定のライブやグッズなどを考えたこともあったが、少ないスタッフでは対応できないし、お金にあまりならない仕事を増やすだけ。それよりも現在の仕事の中でファンが入り込める部分を増やす方が、いろいろな面でのメリットが期待できると感じた。
オリジナル・ラブのファンクラブ(プライム・チューン)の中の人は、是非ご一考を。


以下、三部構成の『世の中への扉 ヒット商品研究所へようこそ!』の内容について補足。

ガリガリ君

赤城乳業のヒット商品「ガリガリ君」。ガリガリ君に関わる人たちは「遊ぶように楽しみながら」仕事をしている。どのように「好き」を「仕事」に変えているのかを追った『しごとば』的な内容。ガリガリ君の蘊蓄は以下の通り。

  • 1980年の「ガリガリ君」誕生までの赤城乳業の人気商品は「赤城しぐれ」
  • 「赤城しぐれ」は食べるときに両手が塞がるので、片手で食べられるかき氷として「ガリガリ君」が誕生。
  • 駄菓子屋のアイスは、冷凍庫提供元の会社の商品しか入れることができず、小さな赤城乳業は進出が難しく、初めからコンビニでの流通をベースとした。
  • ラーメンアイス、カレーアイス、たこ焼きアイス、犬用アイスなどの失敗事例も多数。
  • ガリガリ君の氷の粒は、最近の若い人の好み(やわらかいものを好む)に合わせて細かくしている。

なお、本庄にある工場は「魅せる」ことを意識して作られているということで、是非一度行ってみたい。

瞬足

よう太の友達や、登校中の小学生たちを見ると、紫外線を気にしているのか野球帽は多い。ただ、種類は昔より多様化しており、さまざまな柄のキャップが並ぶ。
先日、そんな中に「SYUNSOKU」と書かれた帽子を見つけた。SYUNSOKUとは、アキレスの運動靴「瞬足」。実際、小学生の子で「瞬足」を履いている子がかなり多いのは知っていたのだが、ここまでブランド化が進んでいたのかと思ったのだった。


さて、章の冒頭では、小5の国語の授業で出された「きみにとっての神様はなんですか」という作文の課題に対して、「瞬足の中の神様」というタイトルで書いた作文が紹介されている。クロスカントリーの大会で、瞬足のおかげで優勝できたことをきっかけに、なにごとにも目標を持って取り組むことができるようになった、という内容で、母親が送ってきたものを、アキレスの方で大切に保管しているものだという。

そんな瞬足は

  • 全国の小学生700万人に対して年間600万足以上売れている
  • 左右非対称の特殊な形のために、どこの(中国の)工場も引き受けてくれない中、中国の靴マニアの会社に引き受けてもらえることになった。
  • 2003年5月の発売当初は売れなかった。夏の終わりに運動会を行なう新潟の小学校で売れ始め、売れ行きに火が付いた。
  • 伊勢丹では、日本製瞬足が売られている。

冒頭の作文少年は、現在高校生で陸上競技を続けているとのこと。章末に述べられているように、瞬足に影響を受けた世代が五輪で活躍するような日も近いのかもしれない。

参考(過去日記)

*1:なお、「日本で初めて少年少女向けの文庫」が生まれたのは1950年の岩波少年文庫