Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

孤立死の現場から見た日本〜吉田太一『遺品整理屋は見た!!〜天国へのお引越しのお手伝い』

遺品整理業者とは…
人が死亡した際に遺される家財一式を、遺族に代わって整理・移動・供養等を専門に請け負う業者。遺品の片づけなど物理的なことだけでなく、遺族へのアドバイスを含め、よき話し相手となるなど精神的なサポート力も必要とされる。核家族化が進んだ現代においては、すでに欠かせない存在であり、社会的にも広く認知されつつある。ある意味、現代社会が抱える問題が作り出した仕事ともいえる。

つまり、近しい親族がいる人、通常の社会生活を送っている人の死に際しては出番がない職業で、基本的には独居老人などの孤立死*1を扱うことの多い職業のようだ。
この本は、そんな遺品整理屋の第一人者が見た「死」について、34もの事例を挙げられたドキュメンタリー。
裏表紙では「感動的な命と絆の物語」と持ち上げているが、あまりに淡々と事例が取り上げられているので、感動的な感じはしない。


事例の数は多いが、共通して取り上げられる問題に「におい」の話、「大家とのトラブル」がある。
孤立死は、発見が遅れるために遺体の腐敗が進みやすく、においの問題は避けては通れない。それ以外に、社会生活から脱落した人が、住居をいわゆるゴミ屋敷化してしまう事例があるようで、においに対する装備は遺品整理屋には必須のようだ。また、ペットとともに暮らす独居老人も多く、ドアを開けるといきなり厚さ50cmのウサギの糞で底上げされていた事例が載っていて驚いた。死んだあとも含めて、「におい」というのは、社会生活の基本なのかもしれない。
さて、孤立死したまま発見が一ヶ月遅れたとして、その期間の家賃(それに加えて滞納している場合も多い)や、クリーニング等の費用、また、遺品整理屋への依頼など、何かとお金のかかることばかり。しかし身寄りが少ないから孤立死をするわけで、保証人(亡くなっている場合もある)や遺族が、支払に関して大家とトラブルになる件も多いようだ。自殺の場合には大家にも告知義務*2が生じるため、貸す側もリスクが多い。少ない縁者を辿って、遠い親戚にお呼びがかかるということもあるのだろうか。これは他人事ではないかもしれない。


さて、数々の現場を見る中でやはり日本の制度的な問題に疑問符を投げかける場面もある。特に、独居老人の餓死者についてこう書かれている部分がある。

日本の社会保障制度は、建て前上とはいえ、餓死しなくてもいいようになっているので、役所に足を運べばいいのです。が、それもまた建て前の話で、生活保護を受けることをプライドが許さないと拒否したり、あるいは申請すらせずに餓死してしまう人が多いのも見逃せない問題になっているようです。p63

最近、世間を騒がせている次長課長河本準一生活保護問題については、いろいろな意見があるようだが、受給者側のモラルやプライドに左右されすぎる制度設計自体が一番の問題だと思う。毎日新聞の社説が、納得しやすい意見だった。

レギュラー番組が10本ともいわれる売れっ子芸人となった河本さん、母親のことを書いた本はベストセラーとなり、母親をお笑いのネタにもしているというのだから、扶養義務を果たさないのはおかしい。
こういうケースは河本さんだけではないだろう。小宮山洋子厚生労働相は受給者の親族が扶養できない場合、その理由を証明する義務を親族に課すことを検討しているという。雇用危機の影響などで生活保護は受給者が増え続け、総額3兆円を超えるまでになった。不正や不適切な受給をなくしていくことは必要だ。
ただ、現実は生活が困窮状態にあっても保護を受けられない人の方がはるかに多いことを忘れてはならない。実際に親族の扶養が期待できない状況でも「親族がいる」というだけで受給を認められない、親族に迷惑が及ぶのを恐れて自ら申請しないというケースは多い。扶養義務を厳格にするだけでは解決にはならないだろう。一部の不正や不適切な事例のために、本来は必要なのに手が届いていない人たちの存在を黙殺してはならない。

ここに書かれているような「親族に迷惑が及ぶのを恐れて自ら申請しないというケース」は相当多いだろうことを考えると、救われるべき人が救われる制度にするのが第一であって、不正受給にばかり視点が行くのは、やはりおかしい。やれ次はキングコングだ何だと言い出しているので、そろそろ国会議員の“不正受給者”が出てくるのも時間の問題なのではないか。未納3兄弟のことも思い出されるが、政治の場で議論されるにしては、あまりに表層的だと思う。


なお、特に引用はしないが、老老介護の問題も、「孤立死の現場」から見えてくるものがあるという。
社会保障と税の一体改革は待ったなしなどという言葉もよく聞かれるが、国会では消費税そして生活保護の不正受給以外のことをもっと真面目に議論してほしいし、自分ももっと勉強しなくてはいけない。


なお、文庫あとがきにも書かれているように、遺品整理業者の仕事について、さだまさしが書いたのが、先日映画化もされた『アントキノイノチ』だという。こちらも見てみたい。

*1:一般的には「孤独死」の方が多く使う言葉なのかもしれないが、この本では一貫して「孤立死」。

*2:賃貸なら、その部屋の次の入居者に一度。分譲の中古販売はずっと。しかも同じマンション内で起きた自殺についても告知が必要とのこと。