Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

いま聴くべき毒〜キリンジ配信限定シングル『祈れ呪うな』

 →つづき:キリンジ『祈れ呪うな』の歌詞の解釈について
先日、NHKのニュース番組で2011年度にカラオケで歌われた楽曲について取り上げられていた*1のだが、この中の街頭インタビューに驚いた。「ハナミズキ」が好きだという女性が「好きな人と一緒にカラオケ行ったら歌いたい」とコメントしていて、うんんん??と頭を捻ってしまった。少しでもこの歌が好きなら「そういう歌じゃないだろ」と突っ込みを入れたと思う。
自分は、この歌を後追いで好きになり、カラオケで歌いたいとも思ったので少しだけ知っている。「歌詞」とのかかわりについて少し遡るとこうだ。

  • 一青窈の2004年発表の大ヒット曲としての「ハナミズキ」は、自分も何となくは知っていた。でも歌詞についてはよく知らなかった。
  • 2年くらい前だったか、徳永英明のカバーアルバムを聴いたらかなりいい曲だったので、カラオケで歌いたいと思った。「君と好きな人が百年続きますように」という歌詞が不思議だったが、片思いの、もしくは別れた相手のことを歌った曲だと思っていた。
  • さあ、自分でもカラオケで歌おうと、歌詞を見て、やっと、かなり難解な歌詞であることを理解した。よくこんな曲が大ヒットしたなとさえ思った。

 夏は暑過ぎて 僕から気持ちは重すぎて
 一緒にわたるには きっと船が沈んじゃう
 どうぞゆきなさい お先にゆきなさい


 僕の我慢がいつか実を結び 果てない波がちゃんと
 止まりますように
 君と好きな人が 百年続きますように

  • 断片断片では意味が伝わり、そこから考えるとどうも誰かが死んでいるらしいが、全体として何を歌っているかよく分からない。歌っているものの大きさだけは伝わってくるが、少なくともカラオケで自分が思いを載せて歌える曲ではないと判断した。*2


そういう経緯があるから、冒頭に挙げたインタビューの女性の「好きな人と一緒に」「好きな人の前で」歌ってみたいというコメントは本当に意味が分からなかった。そもそも発表から7年もたっているのに歌われているのは、この曲オマージュの同タイトルの映画が誤解を生んでいるのでは、と思い映画の内容を確認してみたら、やっぱり「それぞれの道」へエールを送る曲という解釈で作った映画のようだ。つまり、映画を見ていたらなおさら歌詞の内容を誤解しない。

夢のために東京の大学受験を目指す紗枝と漁師の家業を継ぐ為に励んでいる康平は奇妙な縁から出会いお互い想い合うようになる。しかし東京に上京した紗枝と釧路に残った康平は遠距離恋愛を始めるも、それぞれのすれ違いから別れを選ぶことになってしまう。そしてそれぞれの道を進む2人は再び出会うこととなった。

やはり、「ハナミズキを好きな人の前で歌いたい」と言っていた女性は、「ハナミズキ」の歌詞を全く知らなかったのだ。(これはかなりの衝撃だった)


…なんて言っている自分も、今回、改めて調べてみて、ハナミズキの歌詞の内容は、9.11をベースにしていることを初めて知る。恋愛の歌と思い込んで聴くと理解できないことがやっとわかった。検索してみると、この歌の解釈については、取り上げられることも多く、非常に面白かった*3ので、また改めて聴いて解釈してカラオケで歌いたい。

アメリカ同時多発テロ事件発生時、ニューヨークにいた友人からのメールをきっかけに一週間ほどで書いた詞であった。作詞当時はA4用紙3枚程で「テロ」・「散弾銃」といった言葉があり、一青いわく「挑戦的な詞」であったという。その詞を削っていって「君と好きな人が百年続きますように」の言葉にたどり着いたのは一青自身も不思議に思っているという。

名曲というのは、歌詞の内容を聴き手の解釈に任せ、作り手と聴き手の間で存在感を増していくような、そんなものなのかもしれない。


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さて、2カ月連続でリリースの第一弾「祈れ呪うな」は堀込高樹が作詞・作曲を手がけた“原発問題へのキリンジなりのメッセージソング”である「祈れ呪うな」。この曲は、聴き手にどう解釈されるかについて非常に意識的な曲だという。

。「祈れ呪うな」に関しては、誤解がないようにすごく気を遣って書いたんですよ。明確に「反原発脱原発」って歌ってるわけではないから、もしかしたら聴く人によっては「反・反原発」っていうふうに捉えられるかもしれないなと。今までは人によって解釈が違ってもそれぞれ楽しんでほしいっていう気持ちだったけど、今回の曲に関しては、あんまり好き勝手に判断されたら困る。誤解されたくないっていう気持ちがあったから、解釈の幅をだいぶ狭くしたつもりです。

ハナミズキと同様に、この楽曲の聴き方、受け止め方について少し書く。

  • 5月半ばに、5/30にキリンジの配信限定シングルが出ると知り、聴いておこうと思った
  • その後、タイトルを知り、原発関連の歌であることを想像した。
  • 6/1にやっとダウンロードし聴きはじめる。すぐに、かなり直接的な歌詞であることが分かったが流し聴き。
  • 5度目くらいから歌詞を意識して聴き、あまりの直球に衝撃を受け、インタビュー記事を探して読んだ。

そう、他のキリンジの楽曲と比較しても切迫感が強く、遊びの部分が少ない歌詞だと思う。
今回、歌詞の内容について直接の引用は行わないが、ここまで直接的に原発事故について描けた歌というのも少ないのではないか。
そもそも、キリンジは、昨年7月に、震災のことを歌った「あたらしい友だち」という楽曲をチャリティシングルとしてリリースしていた。

「子供は大人の真似をするもの。
子供どうしの間に風評被害なんてものがあってはならない。
あるとすれば、それは完全に大人の責任です。」            
 キリンジ堀込泰行

「この曲は被災により住み慣れた土地を追われ、
よそで暮らすことを余儀なくされている子供たちのことを思いながら作りました。
彼らに気に入って貰えるだろうか。」
 キリンジ堀込高樹 

この歌詞には、震災についての直接的に触れずに北の町からやってきた転校生のことを綴った内容で、“日本を応援したい”メッセージに飽き飽きしていた自分にとって、そして、斉藤和義の反原発ソングが嫌いだった*4自分にとって、とても新鮮に映ったし、だからこそ心に響く部分があった。歌詞自体の良さもあったが、当時は、テーマへの切り込み方の上手さという視点で楽曲をとらえていた部分があった。今回、改めて聴くと、やはり自然と涙が出るようないい歌。事前に震災のことを歌うと知っていたら、この名曲があるのに、改めて3.11を歌うことにどんな意味があるのか?と思っていただろう。


しかし、「祈れ呪うな」は震災から1年3カ月を経ようとしている今こそ聴く意味がある歌だ。
原発を巡るさまざまな事情について皆が考えるようになった今だからこそ、怖いものとしての原発、恵みの源としての原発の双方を歌い、「反」とか「脱」とかイデオロギー的なことから逃れて、人間がコントロールできないものとして原発を取り上げる。タイマーズが嫌いな田島貴男や自分と同様、イデオロギー的なものが嫌いな人にとっても、原発を考えるきっかけになるインテリジェントな曲だと思う。
ただ、「祈れ呪うな」の歌詞は、それだけじゃない。ラストなんかは特にそうだが、それを言うのか、とギョッとするような歌詞が多数含まれた刺激的な歌だ。毒か薬かと言えば、確実に毒といえる歌だ。聴いた直後の感想は「自分の中で賛否両論がせめぎ合う歌」だったが、今もそれは変わらない。(今は賛が7くらい*5
この歌は、歌詞の解釈の仕方を聴き手に任せない、“思いやり”の少ない曲なので「ハナミズキ」のようにヒットはしない。また、「あたらしい友だち」のような感動も生まない。しかし、特に、関東〜東北に住む人にとっては、原発事故について思い起こさせ、考えさせられ、でもしっかりと歌として成立している奇跡的な歌だと思うので、是非ダウンロードして聴いてみることをお勧めします。

*1:おそらくこのニュースです。カラオケ部門でハナミズキは10位以内にランクしてました。→【第30回JASRAC賞】AKB48が創設以来初の上位3作品独占

*2:カラオケって、思いっきり声を出すという以上に、そういう部分(好きな曲を思いを込めて歌う)に楽しさがあると思うのだ。

*3:こちらの記事が非常に理解しやすかったです。→http://hoshi-biyori.cocolog-nifty.com/star/2009/10/post-01b1.html

*4:最近、田島貴男がこんな風に言っていて面白かった。田島も「ずっとウソだった」は、自分の好きなタイプの歌ではなかったのだろう。>明かされていない部分のある曲として思い出すのがキヨシロさんのスローバラードだわ。以前斎藤君とこの曲のことを話して解釈が僕と正反対だったのが面白かったなあ。実に斎藤君らしい解釈でさ。キヨシロさんはこういう繊細な曲で本領発揮してた。タイマーズは僕にとってはつまらなかったわ。

*5:「否」は、もしかしたら聴いて傷つく人がいるのでは?という懸念。