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地球は氷の塊だった〜ガブリエルウォーカー『スノーボール・アース: 生命大進化をもたらした全地球凍結』

スノーボール・アース: 生命大進化をもたらした全地球凍結 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

スノーボール・アース: 生命大進化をもたらした全地球凍結 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

科学界で大論争を巻き起こしている“スノーボール・アース”。この地球史上最大の事件をめぐり、科学者たちが繰り広げる白熱の探究ドラマを再現する。

5億数千万年前に起こった、多細胞生物の爆発的な進化(カンブリア紀の大爆発)は何によってもたらされたのか? これに答えるのが、スノーボール・アース=全地球凍結仮説である。かつて途方もなく厚い氷が、赤道付近も含めて全面的に地球を覆っていたことを主張するこの仮説は、ウェーゲナーの「大陸移動説」にも匹敵する革命的なものなのだ。

学界のカリスマ、ポール・ホフマンをはじめとして、個性豊かな地質学者たちが、アフリカの砂漠から北極圏まで地球を縦横無尽に探り、全地球凍結の証拠を積み上げていく。そしてその過程を通じ、飛躍的な生物進化の謎が、ついに解明される――オリヴァー・サックス、リチャード・フォーティ、サイモン・シンから絶賛を浴びた注目のサイエンス・ノンフィクション。


何か今さら紹介するまでもないほどの良書です。
今回のような感覚で読書の良さを感じたのは久しぶりかもしれません。


まず、スノーボール・アース=全地球凍結仮説とは何かについて簡単に説明します。
例えば、素数ゼミの本でも出てきましたが、氷河期というのは、今の地球の気候の延長上にあり、寒いエリアが広がっていた時期があるということしか意味していません。たとえば氷河期であっても熱帯地方が氷に覆われていたわけではないのです。
しかし、全地球凍結仮説の想定するスノーボールは、十万世紀にわたり、地球が凍った氷の玉であり、荒れ果て、生命が存在できる状況にはない状態だったとするものです。


そこまで過酷な状態を想定する理由は、ナミビアを始め世界中で見つかるアイス・ロック=謎の多い先カンブリア時代の終わりに氷によってできたと考えられる岩石によります。熱帯地方で見つかる氷の痕跡は、主人公であるポール・ホフマン以前から多くの地質学者の悩みの種でした。
しかし、地球全土が分厚い氷に覆われていたという説は、誰もが思いつきはしても、否定的な見方が多かったのです。理由は主に以下の二つ。

  • 地球は緩やかに変化するものであり、現在の地球から極端に離れた仮定は非現実的である。(斉一説)p200
  • 凍りついた地球は、日光を常に反射し、さらに温度を下げ、極寒状態から抜け出せない。よって全地球凍結はあり得ない。(ブディゴの反証)p141

こういった理由から、いわゆるトンデモ扱いされる危険性の大きい仮説であり、また、それを主張するポール・ホフマンの、圧倒的なカリスマ性と自説を曲げない傲岸さもあり、猛反発を受け続けます。


そんな中で反論として出てくる、ビッグ・ティルト仮説は魅力的です。赤道直下で見つかるアイス・ロックは、地軸の傾きが90度に近かったから、つまり、太陽に向かって地球は寝ていたとする説で、スノーボール・アースVSビッグ・ティルトの対決なんて、プロレスみたいでワクワクします。(巻末解説によれば、ビッグ・ティルトは今は退けられているようです)


スノーボール・アース仮説の一番の魅力は、それがカンブリア大爆発と結びつくところ。

  • 全地球が凍結していた時期が長期に渡った(7億5000万年前から6億年前)
  • ごく少数の生物が火山活動のある温泉のような避難場所で生き延びた
  • 活発な火山活動により噴火によって発生した二酸化炭素は、氷には溶け込むこともできずに濃度が急上昇
  • 二酸化炭素による温室効果により温暖化し、全地球凍結時代は終わりを告げ、カンブリア大爆発へのお膳立てが揃う。

というのがスノーボール・アース仮説の全体像で、畑違いの生物学の領域にも入り込み、カンブリア大爆発(多様な多細胞生物の急激な大発生)の原因にまで広がるので、生物学者まで交えて色々な場所で議論になります。(第9章)

そういったスノーボール・アースに反対する学者の人物像にも踏み込みながら、群雄割拠の物語のように描かれているのがこのノンフィクションの凄いところです。また、人物を追いながらも、フィールドの魅力と過酷さが常に書かれており、アムンゼンなどの冒険家の逸話、ウェゲナーの恵まれない最期なども交え、自分も北極やナミビアの現地調査に同行しているような気持ちになれるのも、飽きずに読み切ることができた理由でしょうか。


こういった科学物は、やや苦手意識もあり、積極的には手を出してこなかったのですが、SFなんかよりはよほど重荷にならずに読めることが分かりました。次は、本書の中でも何度も名前が出てきたスティーブン・ジェイグールドあたりを読んでみようと思います。

ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)

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