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現代数学を学ぶ大切さ〜リリアン・R・リーバー『数学は世界を変える』

数学は世界を変える あなたにとっての現代数学

数学は世界を変える あなたにとっての現代数学

これは面白そうな感じの本だと思い手に取った。
イラストがふんだんに使われ、改行も多く、表紙もポップで、かなり分かりやすそうな見かけをしている。
実際、読み始めても、使われている言葉は難しくなく、数学を意識せずに読み進めることができる。
そして極め付けは帯の紹介文に書かれた次の言葉。

アインシュタイン絶賛!!

そう、原書の初版は1942年というかなり昔の本なのだ。
それだからだろうか、何となくぼんやりしている。
時代を共有していないためか、作者の問題意識がどこにあるのかがイマイチ分からない。
それについては訳者まえがきでも触れられている。

本書には、時代背景が色濃く反映されている。執筆当時、世界中が戦争で大混乱にあった。そんななかで著者は本書を通じ、科学や数学は戦争の道具ではなく、その思考体系や哲学が逆に人生を豊かにして、社会や世界を救い、さらには民主主義や国際協調を育んでくれるということを、多くの人に伝えようとした。現代ではこうした著者らの主張は、表面的には少し古臭く感じられるかもしれない。しかしそれは、現代のわたしたちの精神のなかに、そうした理性的考え方、さらには民主主義や協調意識がすでに染みこんでいて、普段は意識することもないからだろう。


いわゆる古典とは異なり、この本の復刊は2007年とごく最近であって、やはり古典として長く世に残っていくには、時代性が強い本だったのかもしれない。
本を読み、作者の意図を十分に読み取るには、その時代に共有されている問題意識を捉え、その文脈の上で文章に触れていく必要がある、特に古い本については注意が必要だなあと感じた。


そんな中で面白いと思ったのはタイトル副題にある「現代数学」の扱い。
この本は、古典数学と現代数学を明確に分けて構成されており、おろそかにされがちな「現代数学」に目を向ける。
現代的なものの流れを以下のように説明し、現代絵画、現代音楽でも同じことが言えるとする。
(1)人間が創造的な動物だと自覚し活動の場を広げ
(2)以前よりも多様性を増し、
(3)多くの奇妙なものに出会うが、それを怖がらないことを身に付け
(4)抽象的な事柄にどんどん興味を持つようになった
すなわち、正当ではない奇抜なアイデアであっても、それが最先端に近づくこともあるから、それを否定してはいけない。だから、数学であっても教育であっても、どんなジャンルでも「現代的なもの」に触れ、古いものに固執せずに興味を持ち続けよう、というのが本書のメッセージだろうか。
でも、自分が「数学本」に求めていたのは、そういった説教じゃなくて、もっとパズル的な楽しさだったんだよな、と読み終えて気づいた…。