- 作者: 花輪和一
- 出版社/メーカー: 青林工芸舎
- 発売日: 2000/07
- メディア: コミック
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滅多にない本という書き方がいいかもしれない。
第一に、実際に刑務所に入った本人による獄中記という観点で。
そして、獄中記なのに、悲壮感が漂わない。呉智英の解説の言葉を借りれば「細部の記録への執着」と「改悛でも償いでもない不思議な心情告白」がメインという、滅多にない獄中記なのだ。
獄中の著者が「一日が過ぎるのがものすごく早い」と独白しているが、四六時中監視されながら複数の人間が閉じ込められている「緊迫」と、生活のすべてが看守の号令のもと受身に過ぎていく「弛緩」に、読んでいるほうもあっという間に引きずりこまれて、しばらく抜け出せなくなるのでご用心あれ。(福山紫乃:Amazonあらすじ)
そんな「緊迫」と「弛緩」に満ちた刑務所の中。全編にわたって登場するのは、食べ物のこと。
何度も本編の中に細かい献立表が表れるが、特に、月に6度のパン食、中でも、小豆が出る日は作者にとって至福の楽しみだったようで、ヘロインなんか目じゃないという、溶けるような漫画描写が、獄中の食事をものすごく魅力的に見せる。小豆を塗りたくったパンを規則を犯して部屋に持ち帰り隠れて食べる仲間の話は、吉田秋生の『河よりも長くゆるやかに』の「あんバタ」のような、食べる行為と、いかがわしさが一緒くたになって、変なトリップ感を出していた。夢に出てきてうなされそうだ…。
花輪和一は、名前はよく目にしていたが、読むのは初めてで、絵柄は濃厚過ぎて好みではないものの、こういうドキュメンタリー形式ならもっと読んでみたいかもしれない。
掲載誌は、「ガロ」から独立した編集者たちが始めた「アックス」。大好きな福満しげゆき『僕の小規模な失敗』の掲載誌としか知らなかったが、これを読むと、いかにも「ガロ」っぽい雰囲気が分かる。
なお、この、どう起承転結をつければいいのか分からない話が映画化されているのには驚き。崔洋一が監督で山崎努が主演ということなので、これも見てみたい。
- 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
- 発売日: 2003/08/22
- メディア: DVD
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