Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

美しい絵を見ながらウナギと日本について考える〜カレン・ウォレス、マイク・ボストク『ウナギのひみつ』

ウナギのひみつ (大型絵本―かがくとなかよし)

ウナギのひみつ (大型絵本―かがくとなかよし)

『うなぎを増やす』で話に挙げられているのは、ニホンウナギがメインでしたが、この本で取り上げられるのは、ヨーロッパウナギアメリカウナギです。
ヨーロッパウナギアメリカウナギは、ともに北大西洋のサルガッソ海*1で生まれます。『ウナギ 大回遊の謎』に書かれているように、このことは、90年前に、デンマークの“ウナギ研究の巨人”シュミットによって明らかにされていますが、場所の特定と天然ウナギの卵の採集という意味で東大海洋研の偉業は「世界初」と言われます。
『ウナギのひみつ』は、サルガッソ海で生まれたウナギが、川に上って生活してからまた海に下って行くまでが描かれている美しい絵本です。
サルガッソ海で生まれて海岸に辿りつくまで3年かかる、という点は、ニホンウナギの話から比べると、やや長い感じもしますが、それも含めて、内容は細かい部分に渡って記述されており、とてもよくできた科学絵本となっています。特に、

  • 下りウナギについての「ウナギたちは、やみ夜をまっているうちに、たがいにからまりあって、ボールのようになることもあります」という部分や
  • レプトセファルスについての「ウナギのこどもたちは、みんな葉っぱにそっくりなすがたをしています。なん百万びきものウナギのこがいっせいに波にのって広い海をおよぎわたるさまをおもいうかべてください」の部分の悪夢っぽいイメージ

は最高です。(以下、後者についての部分写真です)
 

ヨーロッパウナギアメリカウナギ、アフリカウナギ

さて、ヨーロッパウナギは世界にいる全18種(亜種含めると19種)のウナギの一種で、中国産の輸入ウナギの多くはヨーロッパウナギです。そのヨーロッパウナギは、2008年に国際機関のレッドリストに載り、2009年には輸出規制が始まり、今年に入って全面的な輸出禁止となっています。まず、2009年のWWFの記事を引用します。*2

取引規制の背景にあったのは、ヨーロッパウナギの深刻な減少です。増加の一途をたどってきた、世界的なウナギの消費の圧力をうけてか、この20年ほどの間に、ヨーロッパウナギは激減。
北大西洋の海洋環境と漁業に関する政府間機関「国際海洋探査委員会(International Council for the Exploration of the Sea)の調査によれば、ヨーロッパ12カ国の19の河川で漁獲されたウナギの稚魚(シラスウナギ)の量は、1980年〜2005年までに、平均で95〜99%減少していることが明らかになりました。
2008年には、IUCN(国際自然保護連合)の「レッドリスト(絶滅のおそれのある野生生物のリスト)」にも、「CR:近絶滅種)」として、その名が記載されました。この「CR」は、野生生物の危機の度合いを示すランクの中でも、最も危険性が高く、絶滅に近いとされるランクです。


2012年にヨーロッパウナギが全面的に輸出禁止となると、今度はアメリカウナギが標的となり、今度はアメリカが警戒を始めます。NHK時事公論のブログ記事を引用します。*3

ジャポニカ種シラスウナギだけでは足りず、中国はヨーロッパ種を輸入し始めたのです。一時は中国で養殖する70%がヨーロッパ産のシラスウナギだったとする指摘もあります。
危機感を強めたEUは、2007年、ヨーロッパウナギワシントン条約の付属書2とし、規制する一方で、今年4月からは全面的な輸出禁止に踏み切りました。
そして中国がヨーロッパ産の代替品として注目したのが、アメリカ産のウナギです。
世界的な環境保全団体、トラフィックは今年3月、ヨーロッパ産シラスウナギの減少を埋めるように、アジアへ輸出される、アメリカウナギが増えている事を示す、資料を発表しました。

もともと資源量が減っていたアメリカウナギですから、アジアへの輸出が増えることになれば資源減少に拍車がかかりかねません。しかもウナギの稚魚は、どの種のウナギか、見た目では見分けが付きません。
そこでアメリカはアメリカ種の規制を強める一方、規制に実効性を持たせるために、全てのウナギの取引の規制を検討しているものと思われます。


この記事でも触れられているように、今年の丑の日の前には「次はアフリカ産が狙い」みたいなニュースもありましたが、この経緯を分かった上で再度見直すと怖くなってきます。
やはり、結論としては、消費者に我慢を強いるような対策でも、どんどん行っていくことが、うなぎのためにも、そしてヨーロッパ、アメリカ、アフリカと、(中国経由で)世界中のウナギ資源に手を付けようとしている日本*4が、海外からの厳しい目に応えるためにも取るべき道なのだと思います。

美味しいものを安く食べたい。私たち消費者の願いでもあります。しかし資源が少なくなったのであれば少し我慢をして、資源回復に協力する。それがウナギを末永く楽しむために、私たちに必要な事かもしれません。

*1:「船の墓場」として知られます。子どもの頃、いろんな話でよく目にした「バミューダ・トライアングル」の海域内にあります。

*2:この記事では、乱獲以外のウナギ減少の原因として生息地の消失や、産卵のための海への回遊への障害、汚染、寄生虫や病気の伝染などが挙げられています。

*3:この記事ではウナギ資源の減少の原因として乱獲、生息環境の変化、国の対策の遅れを挙げた上で、2012年6月に国が出した緊急対策について触れています。

*4:日本は世界で漁獲されるウナギの70%を消費していると言われています。http://nationalgeographic.jp/nng/article/20120710/315512/index4.shtml