Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

素晴らしいイントロ本〜竹内正浩『地図と愉しむ東京歴史散歩』

カラー版 地図と愉しむ東京歴史散歩 (中公新書)

カラー版 地図と愉しむ東京歴史散歩 (中公新書)

文明開化、関東大震災、空襲、高度成長…建設と破壊が何度も繰り返された東京だが、思わぬところに過去の記憶が残っている。日比谷公園の岩に刻まれた「不」の記号、神田三崎町に残る六叉路、明大前駅の陸橋下の謎のスペース、一列に並ぶ住宅など、興味深い構造物、地形を紹介し、その来歴を解説する。カラーで掲載した新旧の地図を見比べ、現地を歩いて発見すれば、土地の記憶が語りかけてくるだろう。

ブラタモリなど、最近はやりの町歩き関連の番組や本は、あまり観たり読んだことが無かったのだが、カラーの地図や写真が多く、9編の切り口で東京の歴史を解説した内容はそれぞれが興味深く、すぐに読み終えた。目次は以下。

1 石垣に刻まれた幻の水準点
2 明治の五公園は今
3 市営霊園の誕生と発展
4 都内に残る水道道路の謎
5 生まれた川と消えた村
6 幻の山手急行電鉄計画
7 軍都の面影を訪ねて
8 未完の帝都復興道路
廃線分譲地と過去の輪郭

中でも面白かったのは、「幻の山手急行電鉄計画」。昭和初期に打ち出されたものの、壮大過ぎて資金や許可での難点が多く、昭和10年代には頓挫した計画。当初は大井町三軒茶屋代田橋〜中野〜新井薬師前〜板橋〜駒込〜北千住〜東陽町(〜東京)というルート*1で計画されており、カラーのパンフレット写真も誇らしげな感じで載せられている。
明大前駅の陸橋(玉川上水橋)の下には、井の頭線往復以外に2つ、合計4線分の軌道が確保されており、また、一直線に伸びる井の頭線が明大前部分でクランク状に曲がっているのは、山手急行と並走させる計画があったからだとの説明は説得力があった。明大前の陸橋下の空きスペースについては、今度、実際に観に行ってみよう。


利根川東遷や、帝都復興計画と後藤新平など、テーマとしてそれで一冊書ける内容もあり、そういったテーマについては、上澄みをさらう程度の話の密度で物足りなさも感じた。しかし、そういった歴史本は、これまで手が伸びなかった本でもあるので、このようなかたちでイントロダクションがされていると、「歴史」の面倒な部分はとりあえず置いておいてエッセンスに触れられるし、今後の読書を思っていろいろ楽しくなる。せっかく東京*2に住んでいるので、「教養」としても、もう少し勉強しておきたい。
巻末の章ごとの主要参考文献では、以下のような本が手に取りやすそうだ。

ミカドの肖像(小学館文庫)鉄道考古学を歩く JTBキャンブックス東京都市計画物語 (ちくま学芸文庫)東京の都市計画 (岩波新書)鉄道廃線跡を歩く JTBキャンブックス
そのほか、上野公園や芝公園多磨霊園*3玉川上水など、自分の目にする現代の東京との比較を地図上で確認しながら読み進めるのは楽しく、続編も是非読んでみたいと思わせる本だった。*4

*1:個人的に馴染みのあるいくつかの駅を抽出したものです

*2:読んで気づいたが、調布市含む三多摩地区は1983年に東京府に移管されるまでは神奈川県に属していた。

*3:3章に書かれている通り、キリスト教への対抗措置として寺請制度、宗門人別改帳の江戸時代を経て明治維新後に神仏分離令のもとで神道が地位を回復する一方、多くの寺院や仏像が破壊された歴史は日本史で習ったはずなのに忘れていた。深川にあった三十三間堂などもこのときに破壊されているという。勿体ない。

*4:書きそびれてしまったが、中山競馬場横の行田団地付近の円周道路は船橋海軍の無線施設の跡だということも初めて知った。「ニイタカヤマノボレ」をハワイに向かう「赤城」に送信したのもここからだという。