- 作者: メディアユニオン
- 出版社/メーカー: 有楽出版社
- 発売日: 2012/08/01
- メディア: 単行本
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- 東の川下町の川
- 西の川 山地・丘陵発、新しい都市の川
明らかに神奈川県の河川のように思う鶴見川が一番最後に取り上げられているのは、源流が町田市にあるから。本書内でも、町田市内の源流部分について4ページを割いている。
どこをめくっても見開きに写真や図があり読みやすく、東京の川全体を一覧したい人にはオススメの内容と言える。
自分もそんな気持ちで読み始めたのだが…
野川
まずは自分が一番親しみのある野川から確認してみる。
すると、本川である多摩川と章が分かれているのがまず気になる。野川までは(合流点である二子玉川の印象から)「市外局番03」の地域という印象なのだろうか?やはり多摩川と合わせて扱うのが筋である気がする。
ガッカリするのは、野川水源について取り上げていないという点。日立製作所中央研究所については「年2回の公開日以外は入れないので、敷地沿いを道なりにぐるりと南へ回り…」で済ませているが、ブラタモリの野川特集でも取り上げていたように、普通だったら大きな見どころのはず。*1結局、あくまで「現地で歩くこと」に主眼を置いているという理由で、「年365日」歩いて回れる国分寺近辺の別の水源である殿ヶ谷戸庭園、真姿の池、姿見の池についてのみを取り上げているようだ。しかし、後述するように、これは本筋を外していると思う。
その他、仙川、谷沢川(等々力渓谷)についてもページを割いているため、細かいポイントに構っている暇はないのだろうが、17ページという分量の割には内容が薄い。いや、内容が、というよりは文章がツルッとしていて捉えどころがない。市町村のホームページにある、観光地の概要説明のように、必要最小限かつ個性のない文章。
ということで、野川について言えば、思い入れがあればあるほど読めない、何も得るところが無い。
神田川
一応、フェイバリット小説『サマーバケーションEP』の舞台である神田川についても読んでみる。
神田川を語る際には「平川」にふれなければならない。徳川家康が江戸に入る前は、かつてあった平川の河口にまちが開けていた。いわば江戸の母なる川。その川が、幕府による江戸城防御と都市整備の工事の中で、流路を変えられ、流れを止められ、堀となったり、埋められたりして存在を失い、“幻の川”となった。皇居(旧江戸城)の内堀「平川濠」とそれにかかわる橋と門の名、そして地名の「平河町」にわずかな名残。神田川のかつて「江戸川」といった川筋に分流する日本橋川をつないだラインが、川として平川と呼ばれた最後の河道ともいわれる。
ここまで書いておきながら、平川に関する図が全く出てこないのはおかしいと思う。
実際、検索すれば見やすいホームページがいくつも出てくる。(特に後者は流路の変遷が直感的に分かるのでオススメです。)
こういった疑問点や興味のポイントを華麗にスルーして、ほとんどどうでもいいカーナビ的道案内を延々と続けるのは何かの嫌がらせだろうか。(地図無しに文章が続く…)
井の頭線といったん離れた流れは久我山駅で再び接近。左手に井の頭線の検車区を見て、富士見ヶ丘駅、高井戸駅と、ほぼ線路沿いを進む。高井戸駅の前、佃橋で環八通りと交差。しばらく行くと川は線路から離れ南東へ向かう。やがて入る公園は塚山公園。鎌倉街道が走る鎌倉橋を抜けて、東北方向に流れを変えた川沿いを歩く。(以下続く)p98
何のための町歩き
先日読んだ竹内正浩『地図と愉しむ東京歴史散歩』のあとがきにはこうある。
現代は、どこにいっても案内標識だらけ、説明過剰である。考えてみれば、これほど不幸な世の中はないかもしれない。自分で調べることをしないまま、ことの真偽について確かめる間もなく思考停止し、お仕着せの歴史観を真実として押し付けられてしまうからだ。しかも、説明過剰は、かえって事の真相・深層を覆い隠している。
だからこそ案内板のないスポットに目を向け、自分の足で探して、自分の頭で考えることの重要性を、竹内さんは一冊の本を持って示しているのであり、実際、町歩き関連の本が沢山出ているのは、それが理由に違いない。したがって、町歩きは、その場所(人や歴史)の持つ魅力に加えて「謎」や「仮説」が面白いのであって、町歩き本は、その部分を補完してくれる内容であるべきだと思う。(少なくともカーナビ的道案内に文章を割くべきでない)
- 作者: 皆川典久
- 出版社/メーカー: 洋泉社
- 発売日: 2012/01/31
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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デジタル鳥瞰 江戸の崖 東京の崖 (The New Fifties)
- 作者: 芳賀ひらく
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2012/08/31
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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推測だが、この『東京の川と水路を歩く』は、複数の担当者の執筆原稿の凸凹を取り、文体を揃えるうちに、ここまで凡庸でツルッとした面白みのない報告書的文章が出来上がってしまったのではないだろうか。*2イカロス君はIKAROSチームの熱意が度を越して具現化したものであり、竹内正浩『地図と愉しむ東京歴史散歩』もそうだが、作った人の興味・関心が一般的な枠の外にはみ出してこないと、全く心には響かない。
短い期間に好対照の本を読んだので、本の面白さについて考えるいい機会にはなった。