Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

最後のウナギを求めて〜青山潤『アフリカにょろり旅』

アフリカにょろり旅 (講談社文庫)

アフリカにょろり旅 (講談社文庫)

この本は間違いなく面白い。
もう、何も書く必要はないくらいだが、辺境作家・高野秀行さんの解説から引用する。
解説は、まず、高野さんが東大海洋研に、怪魚「ウモッカ」について相談に行くところから始まる。そこで、二次大戦後の海洋生物学の大発見として「東大海洋研によるウナギ産卵場の特定」が挙げられるのを聞き、謎に満ちた海の世界に魅せられる。そんなときに出版されたのが、この『アフリカにょろり旅』。

あのウナギチームの塚本勝巳教授、著者の青山潤氏、そして後輩の渡邊俊氏の三名が、世界十八種類のウナギの中で唯一まだ採集されていない幻のウナギ「ラビアータ」を捕獲するため、アフリカへ飛ぶ。(略)
汚いザックを抱え、三名はTシャツにサンダルで現地のバスやトラックを乗り継ぎ、トイレにウンコが山盛りになっているような安宿に泊まり、肉に正体不明の毛がからみついているような現地食堂の飯を食ってよたよた移動を重ねる。まるっきりバックパッカーの旅なのだ。(略)
私は唖然としてしまった。これが歴史的偉業を成し遂げた、あの東大海洋研のウナギチームなのか。私が初めてアフリカへ行った時を数段上回るムチャクチャぶりだ。あまりのアホさと壮絶さに、なんだか憧れの清純派女優をストリップ劇場で目撃したようなショックを受けた。

ということで、出鱈目さ加減が面白い一方で、高野さんが感動したと書いているように、研究の根本部分にある知的探求心についても触れられている。最終章では、「にょろり旅」以降に、学術研究船白鳳丸白鳳丸に乗ったウナギチーム内での議論が出てくる。2005年6月、生まれて二日目のニホンウナギの仔魚(プレレプトセファルス)を世界で初めて採集したことで、産卵場はほぼ特定されたものの、まだ卵は見つけていない。ここで青山さんが、周囲から「ただの宝探し」と揶揄される産卵場調査を打ち止めにしたらどうか?と提案するのに対して、塚本教授はこういう。

…でもね、青ちゃん。誰がなんと言おうと、いつの時代にも、どんな世界にも、やっぱり冒険は必要だよ。それもわくわくするようなスケールの大きな冒険が必要だと思うよ

この言葉に、青山さんが「冒険」こそが「人間の根本的な部分を魅了する何か」であり、研究に必要なものだと思いだして物語が終わる。イカロスもそうだが、こういう探究心の話は、やはり読む側にも伝わって熱くなれる。(しかも、このあと、塚本教授の言葉通り、本当に卵を見つけてしまうのだ!)
ただ、この本が変わっているのは、その「知的な部分」についてはほとんど触れられていないところ。

webのインタビューで、著者の青山さんは、今の科学は専門分野が狭すぎて、入門書ですら理解するのが難しいことを挙げ、以下のように述べている。

そうなんです。ですから私は、『アフリカにょろり旅』のようなバカなことを書くときに、科学的な部分はもう抜いてしまおうと思っているんです。阿井さんに 言われた、研究者っていうのは別に霞を食って生きてるやつじゃなくて、普通の人と同じ、本当にバカな人間なんだということをまず伝える。それを読んで、 「なんでこいつら、ウナギなんかに命かけてんだろう。バカじゃないの?」ってちょっとでも興味を持っていただければ、次のステップとしてブルーバックスな んかに繋がって、峰の上に登っていけるんじゃないか、と。

そして、その意図通りに、ウナギ研究の新書として、真打ちの塚本勝巳教授が出したのが以下の本なのだろう。師弟コンビの連携はさすがだ。

ウナギ 大回遊の謎 (PHPサイエンス・ワールド新書)

ウナギ 大回遊の謎 (PHPサイエンス・ワールド新書)


そして、文庫版あとがきでは、青山さんの弟分である渡邊俊さんが、ボウズハゼの研究で後輩の指導をする中で現地調査の難しさに気づき、青山さんや塚本教授への感謝の気持ちとリスペクトを述べているのが素晴らしい。こういった研究室内での上下関係と人間的結びつきについては、それこそブルーバックスや新書では読めない部分であり、東大海洋研の魅力を垣間見た感じだ。


高野秀行から入っても、ウナギへの興味から入っても、どう読んでも面白いこの本は老若男女を問わずオススメの一冊です。