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紫織さん×マヤ対決始まる、そして舞ちゃん散る〜美内すずえ『ガラスの仮面』文庫本24

ガラスの仮面 第24巻 ふたりの阿古夜 1 (白泉社文庫 み 1-38)

ガラスの仮面 第24巻 ふたりの阿古夜 1 (白泉社文庫 み 1-38)


最新刊の49巻を読んだあとで読み返した文庫の現時点での最新刊24巻は、演劇面も恋愛面も非常に盛り沢山。
場を混乱させる聖さんのやり口は、この頃から発揮されていたようです。(笑)

演劇面

紅天女のイメージがどんどんふくらんでくるの
わたしの紅天女が…!
この肉体はイメージを表現するためにある…!

ばあやに向けて語るこの言葉の中に、亜弓さんの特徴が表れています。逆に言えば、マヤはこういう考え方をしないし、できません。この一巻を読み返してみても、「表現」という言葉をマヤは自発的には使わないのです。
演じる役を「解釈」し、イメージを練り上げた上で、「表現」に落とし込む、という一連の過程を、亜弓さんが、一つ一つ丹念にこなしていくのに対して、マヤは一足飛びに、役に入り込んでしまう方法で、これまで乗り越えてきました。
しかし、ガラスの仮面の中でも一番の「理論派」である黒沼監督はそこをマヤに少しでも意識させようとします。*1

自分たちの役を想像しろ…!想像したものを創造しろ…!
創造したものを舞台の上で表現しろ…!
表現力こそが観客を説得できるのだ!


さらに、黒沼理論の神髄は、速水さんを通じて、マヤの心に響くのです。

マヤ…!
おれに紅天女を信じさせてくれ…!
紅天女のリアリティを感じさせてくれ
この現実の世界に紅天女がいる…と
おれと…きみを観るすべての人に

このあと、麗がキャベツを切るときに痛い!と感じるなど、行き過ぎているところもあるのですが、宗教世界の話に入らないギリギリのところ*2でマヤが悟りを開くのが、ガラスの仮面の絶妙のバランス感覚です。

恋愛面

恋愛面では非常に多くのエッセンスが入った巻になっています。大きな出来事だけでも

  • 速水さんがマヤに紫織さんを紹介(初対面)
  • マヤの失恋の相手に全く気付かない桜小路君
  • それを慰めるための富士急ハイランド〜河口湖〜別荘デート。(イルカペンダント購入)
  • それを知った速水さんが桜小路君に直接確認
  • 桜小路君とマヤのミュージカル〜運河沿いのレストランデート
  • マヤ、海に落ちる →桜小路君が助ける →その場にいたのに一歩遅かった速水さん
  • 聖さんが、更衣室のロッカーの鍵をこじ開けて桜小路君のケータイ情報を盗む(!)
  • ケータイの写真を見て激怒する速水さん
  • 稽古場に来て、マヤに暴力を振るう舞ちゃん
  • ファミレスで舞ちゃんを振る桜小路君
  • 自分の気持ちに嘘をつかないと決めた桜小路君はマヤに告白する
  • 「待っててもいいかな」という問いかけに「うん」と答えるマヤ
  • 紫織さんが花屋で欲しいと言った紫のバラを過剰に拒否する速水さん
  • 速水さんの引き出しの中からマヤの写真を発見し、マヤの稽古場に向かった紫織さんは、そこに届いたばかりの紫のバラの意味を知る。
  • 聖さんを通じて「会いたい」と伝言を残し、ひとり朝日公園の歩道橋で待ち続けるマヤ
  • トラブルのあとの表情から、マヤが紫のバラの人に恋をしていることに気付く桜小路君と速水さん

まずい、全部書いてしまった(笑)
桜小路君の出番が多く、それが物語に膨らみを与えているように思います。49巻もそうですが、桜小路君が一歩引いて、マヤ、速水さん、紫織さんだけで話を作られるとドンドン厳しい方向に行ってしまいます。桜小路君がいることで場が和みます。
舞ちゃんは立場的には紫織さんと同様、本命への引き立て役なのですが、「孫引き立て役」*3のため、そこまで関係に執着しなくて、桜小路君ファンとしてはほっとしました。
この巻の速水さんは、まだ抑制を利かせている「氷」のようで、最新49巻では、この頃の状態にまで気持ちを後退させてしまっているようです。流れ星を見た紫織さんに向かって「願いごとは自分の実力で叶えるものですよ どうせ叶うことのない願いなら夢みるだけ無駄というものです 夢は捨てました」と言い切るニヒリズムと合わせて、桜小路君に語った以下の言葉が印象的で、暗い最終回を予想させるような発言となっています。

“魂のかたわれ”…
そうだな もし奇跡がおきてそういう相手に巡り会えたなら
ひとはそれまで自分がどれほど孤独だったか
はじめて気づくにちがいない…
そして もし 結ばれることができなければ そのときはきっと…
きっと…


さて、物語は黒沼グループの稽古を月影先生が見に来るところで終わります。
この後、どんな展開になったのでしょうか。(忘れてます)

*1:なお、亜弓が「理論派」寄り、マヤが「本能」寄りなのに対して、月影先生は、その両方を習得しています。マヤが月影先生の年になればそうなるのでしょう。

*2:もしくは宗教世界に片足突っ込んだところまで行って

*3:引き立て役の引き立て役。「孫請け」のイメージです。