Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

匠を感じた〜美内すずえ『魔女メディア』

「魔女メディア」(1975)、「人形の墓」(1973)「ビクトリアの遺書」(1971)の3編を収録した傑作選。『ガラスの仮面』は1975年から開始とのことなので、いずれもガラかめ以前の作品ということになるのかもしれない。
自分の美内すずえ初体験は、おそらく『黒百合の系図』で、その中には「人形の家」も入っていたように思う。そういう理由で、美内すずえに対してはホラー漫画家という印象を強く持っていて、この本に書かれていたのもまさにそんな感じの話ばかりだった。


巻末の解説で石子順は、やなせたかし美内すずえ評「美内さんて、理論家だねえ」*1をヒントに、得意な型に嵌めて、理屈で物語を構築する美内すずえストーリーテラーとしての才能を称える。
実際、解説でも書かれているように、3作はいずれも不幸な身の上の少女が、過去と現実が入り混じる中でさらに冷たい目にあい、最後に謎が解けて無実が晴らされ幸せな結末を終えるというストーリーの基本的な骨格が共通している。


しかし、今回読んでみて、ストーリーの巧さ以上に、漫画的な展開の巧さを強く感じた。1971年の「ビクトリアの遺書」は、美内すずえ漫画のポイントの一つである絵の綺麗さがやや欠ける。にもかかわらず、スルスル読めるのは、この頃から既に、白黒バランスや駒の配置などの漫画的な文法が(個人的には)黄金比的にうまく出来ているからなのだと思う。
例えば、『ワンピース』は絵も上手い、ストーリーも面白い。しかし、情報量の詰め込み方は、通常の漫画とは異なり、スルスル読めず、むしろ疲れてしまう。美内すずえの漫画には、そういうところは全くなく、流れるようにストーリーを追いかけることができる。その意味で、まさに匠を感じた。
確かに、ガラスの仮面はピーク時と比べると絵的には劣化したところがあるかもしれないが、漫画的センスは衰えておらず、やはりスラスラ読めるのは美内すずえが40年前から持っている底力なのではないかと改めて思ったのでした。

*1:売国際漫画大賞の選考委員として自分の意見を理路整然と述べる美内すずえを見てのやなせたかし評なので、漫画に対する評価ではないのだが。