Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

戻らない二人の仲〜山岸涼子『日出処の天子』(2)

日出処の天子 (第2巻) (白泉社文庫)

日出処の天子 (第2巻) (白泉社文庫)

巻末は、氷室冴子×山岸涼子の対談。*1
山岸涼子作品に特徴的な、断絶した場面の展開が、自身が見た夢に繋がっているとする部分は面白い。
確かにその通りで、本能的に怖いと思わせるものが、いろいろな部分に配置されている。この巻であれば、物部の奇襲を受けて崖から落ち、毛人とともに夢で見た仏の行列のシーンはその真骨頂だと思う。
また、物部守屋が樹の上で厩戸王子と出会うシーン(ぶらーんという感じの…)も怖いシーンとして欠かせないが、この人の恐怖表現としては少し異質なのかもしれない。具体的に思い出すシーンは無いのだが、山岸涼子のホラー漫画では、登場人物が感じる恐怖や混乱、嫌悪感が、場面や表情ではなく内面の絵として表現されている部分が多いように思う。楳図かずお漫画が「表情」で恐怖を表現するのとは対照的だ。
なお、ここで話題になっている、『日出処の天子』の着想時にちょうど出版されていた梅原猛『隠された十字架』は読んでみたい。
隠された十字架―法隆寺論 (新潮文庫)

隠された十字架―法隆寺論 (新潮文庫)

全体の流れ

物語は大きく動く。
冒頭の穴穂部王子暗殺。
もっとスマートに暗殺するのかと思いきや、厩戸王子自らも傷を負い、さらに、翌日の朝参では、宅部王子を怪しませる始末。
穴穂部王子抹殺には涙を流して抗議した毛人だったが、厩戸王子を守るためとはいえ、初めて人を殺めてしまう。(宅部王子を死なせてしまう)
お互いが自分の気持ちに気づきながらも、深刻な事態が進行し悶々とする場面は、テレパシーで穴穂部暗殺の犯人を知った間人媛の平手打ちで終わる。


2人の仲は冬の時代を迎え、そのまま物部氏との戦に突入。
物部の急襲で崖から落ちた毛人が臨死状態に陥り、王子は涙を見せる。毛人が無事だったことで、二人の仲は回復したかと思いきや、再度襲われ敵から身を隠したあと、毛人は絶対に言ってはならない言葉(それは、穴穂部王子が自らを死に追いやった言葉)を吐いてしまう。

毛人
 こ、このような事がおできになるなんて。お、王子、あなたは…
 とても人間業とは思えませぬ。ま、まるで…

王子
 だから誰だってできるといってるではないか。わたしだけではない。
 現にそなたも一緒にやったのだ。そなたまでわたしを人間ではないというのか。
 熟した実が枝から落ちるように、高い所から低い所へ水が流れるように当たり前の事だ。
 当たり前の自然の事なのに、それをみんなただ見逃しているだけだ。
 わたしだけが見つめているからといって、わたしは人間ではないのか!!
 わたしは人間ではな……いと

その後、物部守屋を倒す場面では、毛人も自らが「超人的な力」を使って王子を救うことになる。しかし、相変わらず2人の仲は冷戦状態のまま時は過ぎる。
物部との戦が終わったため4年ぶりに家に戻った刀自古。馬子は大后(大王の妻)候補に考えていることを言うが、それに対して明確な拒否の姿勢が見える。次巻以降でひと波乱か?
物部との戦で竹田王子が亡くなり、半狂乱に陥る額田部女王を王子が諭すシーンには同席する皆が涙した。この辺りは聖徳太子が仏教伝来に大きな役目を果たした人物であることを再確認させてくれる。

*1:後半部はネタバレがあったようなので、意識的に飛ばしたが、一部、目に入ってしまったので記憶を消している笑