Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

王子の乙女心に気づいて!毛人!〜山岸涼子『日出処の天子』(4)

日出処の天子 (第4巻) (白泉社文庫)

日出処の天子 (第4巻) (白泉社文庫)

この巻の推進力は厩戸王子の乙女心。
この物語は、厩戸王子というミステリアスな存在に、主人公・毛人が心を揺り動かされていく話だと勘違いしていた。実際、1〜2巻あたりは、そういう見方もできる。しかし、この巻は全く逆で、むしろ厩戸王子が毛人の動きに敏感に反応し、翻弄される展開になっている。全ての元凶は“布都姫”。
布都姫のことばかり追いかけ、全く振り向いてくれなくなってしまった毛人を想い過ぎて、厩戸王子の気もちはどんどん不安定になっていく。不安定過ぎて前の巻では地震を起こしていたが、今回は頻繁に幽体離脱してしまうほど(笑)だ。寝転がってぼおっとしていると、空中に浮いた筆が、宙に「毛人」の文字を描き、はっと我に返る。まるで中学生女子のような乙女心!
そんなこの巻のクライマックスは、王子が仕掛けた、布都姫との雨乞い対決。王子は毛人の協力を得て、無事に雨を降らせることに成功するも、毛人から辛い言葉(布都姫をわたくしにいただけるのでしょうか)を聞き、溢れる涙を抑えきれない。
毛人、気づけよ!王子の思いを!

おのれがおのれらしくあるためには
いや わたしが人間らしくあるためには毛人に補われねばならぬというのか!
わたしの理性や感情をもはるかに越えて
もっと奥深い根源的なところで必要としている鍵は毛人だというのか!?
他の人間をこれほど欲さなければならないというのはどういうことだ
わたしという人間はそれほどまで欠落した部分を持って生まれてきたのか


いやそれよりもなにより
もっと恐ろしいのは
毛人にとって わたしは
必要欠くべからざる人間ではない!

全体の流れ

大王に嫁ぐことに決まった刀自古は入水自殺を図る。急遽、代わりに入内することになったのは河上娘(かわかみのいらつこ)。ところが大王は、河上娘にも大伴の娘・小手子にも気が乗らず、別の女性を欲しいと思うようになる。そこに目を付けた厩戸王子は、大王の目が布都姫に行くように仕掛ける。
一方、河上娘のもとを訪れた刀自古は、相手から、これまで隠してきた秘密を知られていることを知り愕然とする。物部を憎み、明るさが消える原因となったその事件については、たまたま毛人にも知られてしまうことになる。
大王が布都姫に目を付けたことを知った毛人は、すぐに布都姫に想いを告白するも、物部の連中にボコボコにされる。
飢饉と疫病が続き、糠手の提案で雨乞いの祈祷を行なうことになる。それを執り行うのは石上斎宮・布都姫。雨乞いについてそれぞれの人物の意図は次の通り。

  • 大伴糠手:雨乞いを失敗させて、娘・小手子のライバルになるかもしれない布都姫を失墜させる
  • 泊瀬部大王:雨乞いが失敗すれば、布都姫に責任をとらせて斎宮を辞させ、還俗させ、後宮に入れる。
  • 厩戸王子:雨乞いが失敗して、布都姫が大王の元に収まり、毛人に布都姫を諦めさせたい
  • 毛人:布都姫に辛い目を味あわせないよう、雨乞いの成功を祈る。

布都姫の雨乞いは失敗に終わり、その後始末を考える朝廷の集まりで、布都姫を擁護する毛人と王子が対立。その場でのやり取りから次は王子が雨乞いをすることになった。八角堂(法隆寺夢殿)に一日籠った王子は、最後だけ毛人の手を借りて、雨を降らせることに成功する。しかし、本筋の「毛人に布都姫を諦めさせる作戦」は大失敗に終わるのだった。