- 作者: 羽海野チカ
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2011/07/22
- メディア: コミック
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本編(将棋)のストーリーだけでも、物語は十分に進んでいる。
- 一定角度から見るとアキラ(大友克洋)に似た「東のイライラ王子」こと蜂谷すばる(ハチ)との準決勝では、桐山が他の棋士からどのように見られているかを改めて確認。(5巻でも二階堂との会話シーンで、同様の状況があった)
- 決勝で合うはずだった「心友」二階堂を卑劣な手で破った山崎順慶との対局での敵討ち。これはほとんどボクシング漫画のような展開。(しかも勝利の一手は、二階堂がかつてくれたアドバイスが呼び寄せた)
このストーリーだけでも十分及第点が取れる将棋漫画になっているはずなのに、それだけで終わらないのが『3月のライオン』。
当然これに、5巻ラストで驚かされた、ひなちゃんのいじめの話題が入る。さらには、これまで表立っては取り上げられなかった二階堂の病気についても話が加わる。*1
それがメインのテーマの漫画では決してないはずなのに、いじめの取り上げ方に本気を感じる。特に、いじめ問題自体の解決と、いじめられた人への心のケアの問題を切り分けて描かれているのがいい。後者についても二つの立場を用意している。
- ひなに(友達を助けようとしたことを)「よくやった」「胸をはれ」と励ますおじいちゃん
- 励ましの言葉をかけてあげられなかった自分を責めるあかりさん
つまり、誰もが、「そうすればいいはずのこと」をできるわけではないし、様々な立場で「いじめられた人」に向き合う人それぞれの気持ちや、出来ることが少しずつ違う、という当たり前のことが丁寧に描かれている。
いじめ問題そのものに立ち向かう姿勢も違う。そしてあらかじめ林田先生に言わせているように「完璧な答え」はない。だから心のケアを第一に考えながら、それぞれができることを積み重ねる。
- ひなが一人じゃないことを周囲に示そうとする野球部のエース川本君。
- いじめに気付いていながらもやり過ごそうとする担任教師。
- 越境留学を視野に、金銭的なサポート(笑)をしようとする桐山。
- 悩む桐山と一緒に考えてアドバイスをくれる林田先生。
何より、当事者のひなちゃんが怒りを隠さない57話がいい。
気づいたことがひとつある
僕は思ってたんだ
辛すぎるのならそこから立ち去っていい
まともじゃない事をしてくるヤツらには
まともに立ち向かうことはしなくていい
でも
…そうだ 彼女は
ただ辛がっているんじゃない
怒っているのだ
それも
腹の底から煮えくり返る程に
もちろん、いじめに対して「怒ること」が正解だと言うわけではない。
自然現象のように「いじめ」という現象が発生するのではなく、それぞれが異なる人間同士の関係性そのものが「いじめ」の卵なのだから、人間を描かないと、「いじめ」は描けないのだろう。『3月のライオン』は将棋漫画なので、サブキャラのひなちゃんをもっと類型的に扱っても文句は言われないだろうが、そうはしない。怒るひなちゃんの表情からは、本人が悩み、怒り、落胆する気持ちが伝わってくる。*2
3巻くらいまでは、その面白さを理解出来なかった漫画だが、ここに来て、圧倒的な面白さを感じる漫画になった。本当にマンガ大賞(2011)も納得の作品だ。最新の8巻まで読み進めるのが勿体ない…。
表紙・扉絵
この表紙の二階堂は大好きだ。額に入れて飾っておきたいくらい。
5巻の表紙は6巻最初の話(54話)の扉絵となっているので、7巻最初の話の扉絵が二階堂なのだろう。なお、やや飛びもあるが、扉絵が一連の話になっているようだ。まだ続く?
- 55:リスを落としたのに気がついた!
- 57:ミカド書店に置き忘れたのかも!
- 58:手押しポンプの近くかも!
- 59:朝日湯の前を走る
- 61:酒屋の前を走る
- 62:モモちゃん疲れてゼーゼー