- 作者: 朱野帰子
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2010/01/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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おれは猫魂。日本古来の憑き物だ。主君である潔子28歳は無口で地味な派遣OLだが、襲い来る憑き物たちに彼女の怒りが爆発する時、おれの猫魂パワーが発動される!地味OL28歳が黒ずくめの美女に変身!痛快・妖魔退散エンタメ!猫魂降ろしていじわる退治!第4回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞作。
久しぶりに一気読みをしてしまった、さすがのダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞作。
この物語は、4編からなる連作短編集。完全に予備知識なしで読み始め、表紙のイメージと冒頭の文章から、どうも妖怪ものだと分かる。4編のタイトルを見ると、確かに妖怪っぽい。
- 第一話 鬼海星
- 第二話 洗熊
- 第三話 西洋蒲公英
- 第四話 欧羅巴毛長鼬
…と、最初は完全に無防備に、物語世界に入っていくも、読み進めているうちに、一章のタイトル「鬼海星」は、妖怪の名前ではなく、オニヒトデ、近年、日本近海のサンゴ礁を死滅させている原因として名前を聞く外来種であることが分かる。*1さらに、2章を読み始めてすぐに、この連作短編自体が、かなり固定したフォーマット*2の中で話が進んでいることにやっと気がつく。こんな感じ。
- 28歳の派遣OL潔子が勤務先の上司や友人など特定の人物から、精神的ストレスを受ける。
- 悩みの解決のために、潔子は、頼りにしている天道辛彦(格言集が売れている占い師)のグッズにすがる。
- 実は、潔子が受けているストレスや嫌がらせは、その人物に憑りついた外来生物の仕業である。(が、潔子には分からない)
- ストレスがピークに達したときに、潔子は猫魂に乗っ取られ、上司や友人などの憑き物を落とす。(が、潔子には分からない)
- ストレスの源泉はなくなり、相手がよそよそしい態度に変わる。
- 再び天道辛彦にすがる。
例えば、一話目では、潔子は会社同僚の鬼桐ひとみ(大食漢)の誘いを断れず、それほど食べもしないのに割り勘払いで夜な夜な美味しい店に連れ回され、金欠状態。猫魂に憑依された潔子が攻撃を開始すると、鬼桐ひとみには、やはり旺盛な食欲でサンゴ礁にダメージを与えているオニヒトデが憑いていたことがわかるのだった…。
パターン化された展開の連作短編である点、そして、物語の発端が、社会人の日常における「あるあるストレス」を誇張したものである点などが、直木賞受賞作『空中ブランコ』で有名な伊良部シリーズに似ている。しかし、伊良部シリーズはトンデモ神経科医とはいえ医者の立場として「治療」していくかたちを取るため、問題解決方法に「これでいいのか」と心配になるときがあるのに比べて、『猫魂』は、完全にフィクションと割り切れる「妖魔退散」なので、安心して読める。(笑)
ただ一方で、「妖魔退散」は、確かにフィクションであり、非科学的ではあるが、原因と結果をどう結び付けるか、の部分が特異なだけで、実質的には「治療」と変わらない。その意味では、伊良部シリーズよりも上手くバランスが取れているので、スッキリしたいときに読む小説としてはむしろ、こちらの小説をオススメしたくなる。(伊良部シリーズの三巻目『町長選挙』は、そのバランスが崩れてしまっており全くオススメできない)
なお、猫魂からは潔子のことが全部見えているが、潔子からは、自分の能力も、「猫魂」のことも見えず、コミュニケーションも取れない(ただの猫に見える)という双方向ではない設定は、よくある妖怪バディもの*3の中では異質だと思う。しかし、この設定があるからこそ、潔子のバカっぷりや天道辛彦ネタ*4文庫版では表紙デザインになっているのか…))がヒットするわけで、それを考えれば、笑える小説にするには、この部分があってこそなのだろう。
続編ができてもおかしくない物語ではあるので、次回は、潔子が自分の能力に少しずつ気がつき始めるような話も読んでみたい。外来生物は、既に日本に定着した感のあるアメリカザリガニあたりで・・・。
なお、単行本の東村アキコの表紙とタイトルから受ける印象は、読後の印象からすると、やや軽すぎる(ラノベっぽい)感じもするので、もう少し落ち着いたタイトルの続編で、是非直木賞を狙ってほしいです!(文庫版↓もやっぱり軽すぎるかな…)
- 作者: 朱野帰子
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2012/01/23
- メディア: 文庫
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参考(過去日記)
⇒伊良部シリーズは、三作目を除けば、誰にでもオススメできるエンタメ小説。精神的にやや落ち込んでいても、この本を読めば何か元気になれる、そういうシリーズだと思います。マタタビ潔子も同じです。