Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

ボカンコナンとは次元の異なる大人向けサスペンス〜『名探偵コナン・絶海の探偵(プライベート・アイ)』

初日の初回をよう太と観てきました!
ひとことで言えば、大人は最後まで引っ張られる、コナン的には異次元のサスペンス。
劇場版を全てを見ているわけでないので比較できないが、少なくとも近年2作のような「爆発させれば勝ちみたいな映画」(命名:ボカンコナン)ではない。今回の映画をこれから見る人は覚悟してほしい、と助言したくなるほど、物語的にはかなりしっかり作られている。


また、「海上自衛隊全面協力」という言葉は伊達じゃない。施設内部のデザイン等の部分は勿論のこと、おそらく海自独特の言い回しなどにも気を遣っているのではないかと思う。エンディングでは、実写映像が多数現れるが、よう太は映画で見たままだ!と興奮していた。イージス艦を見るために、この映画を見るというのはアリだと思う。


そして昨年の遠藤の比じゃないほど重要な役を演じる柴咲コウ。声優の仕事は久しぶりらしいが、信じられないほど自然。キャラクター造形も柴咲コウを意識してデザインされているようで、ハマりっぷりが凄い。シネマ・トゥデイのインタビューも内容が濃かった。今回のシナリオについては、ここでも次のように書かれている。

今回、イージス艦を舞台にやるって決まったときから、脚本家の櫻井武晴さんに「リアルにしてください」と注文を出していたんです。だから、かなり大人向けになっていますね。あんまり子ども向けにしてしまうと僕的にも面白くないですから。ただそうはいっても、今回はもしかすると、途中から子どもが付いてこられないんじゃないかなと心配になるところもありました。でも劇中ではコナン君がわかりやすく、「何を探せばいい」とか、「何を考えればいい」と教えてくれるので、子どもも十分に楽しめる内容になっていると思います。


と、ここまでの文章を読むと分かる通り、今回の劇場版は決して子ども向けではない。ひとつに全体ストーリーの大前提にある国防(戦争ではない)や自衛隊(軍隊ではない)の概念が難しいという点。そしてもう一つは、小中学生が毎年楽しみにしているのは、むしろ昨年のような「ボカンコナン」であり、今回の映画はボカンに欠ける(見た目が相当に地味)という点。この2点と上に引用したインタビューからすると、コナン史上、最も大人向けの映画ということが言えるのではないだろうか。
個人的にも、近年2作のスケボーアクションに心動かされた部分があったので、スケボーが出てこないのは残念だったが、よう太の評価は、「今年のドラえもんには負けるけどすごく面白かった」とのことなので、きっと、子どもでも楽しめるはず!
(ここからネタバレ。)









クライマックス前の謎解明

今回は物語の展開が非常に上手で、途中ダレる部分が全くない。

  1. 見つかった「右腕」は誰のものなのか
  2. スパイXは誰なのか
  3. 「右腕」の持ち主を殺したのは誰なのか

という基本的な謎は物語を引っ張りつつテンポよく解明される。というよりも、解明されてしまい、やや意外感に欠けるほどスムーズな展開となっている。上に挙げた中ではスパイXの正体は順当でいいし、Xが意外にあっさり捕まるのはあとの展開を考えれば納得。しかし、「右腕」を殺した犯人については、もう少し意外感を過剰に演出しても良かったと思う。


これら、軸になる話が結構あっさり終わってしまい、観ている側は「あれ?」と思うが、数少ないアクションシーン*1のあとで、海に落ちてしまった蘭にやっと焦点があたり、今作の本当のクライマックスに気付かされる。

本当のクライマックスである「蘭の救出」

ここの部分は本当に手に汗を握る心理サスペンス。

  • 眠りの小五郎シーンを経て、一仕事終えたコナンのもとに、蘭の姿が見当たらないとの報告。
  • 取り調べ中のXの発言から、格闘中に蘭が海に落ちたことが分かる。
  • 落ちてからかなりの時間が経っていることを承知でヘリコプターが救出に向かうが広大過ぎて見つからない。
  • コナンの活躍ポイント1:蘭が身につける電波時計から発せられる17:00の時刻受信の電波をイージス艦のレーダで拾うというアイデア
  • しかし見つからない。日没とともに捜索を打ち切るしかないという厳しい判断。
  • コナンの活躍ポイント2:コナンの絶叫が蘭の心に届く!
  • 微かな電波を拾い、位置を特定するも、やはりヘリコプターからでは位置を絞り込めない。
  • コナンの活躍ポイント3:悪趣味な小五郎の金ぴか名刺を多数持っている蘭は、海上で光が強い部分にいるはずという助言。
  • 無事救出へ。


これら一連のシーンは本当に名シーンで、蘭が最後に救出されると分かっていてもさすがに時間がかかり過ぎているし、少年探偵団や園子は号泣しだすし、海自も捜索打ち切りを告げるし…と、これでもかと絶望的な空気が演出される。しかも、落ちたのは雪に埋まっても死なないコナンではなく、蘭で、実は落ちてなかったという展開にも出来ない。物語の展開的に納得できる、合理的な発見方法はもはやないのでは、という絶望感もある。
そこに、序盤で登場した光彦の電波時計と小五郎の名刺という伏線回収が出てくるというのは、安心感以上に、物語の展開としてカタルシスがあった。
さらに振り返れば、蘭が格闘中に救命胴衣の一部を切られてしまうのは、より絶望感を増させるためだったのか…とか、「絶海の探偵(プライベートアイ)」という副題は、まさに目であるレーダの活躍を暗示していたのか…とか、劇場においてあるクイズキャンペーンなどで電波時計が鍵になると書いてあったのは、時間トリックとのミスリードを誘ったのか…?とか、色々な伏線に気がつき、なかなかなスルメ度を誇る作品であることに気がつく。

その他気になった点と総括

なお、今回の舞台は尖閣ではなく、舞鶴湾で、スパイの具体的な国の名前は出さず「あの国」扱いだったが、終わってみれば、それはあまり気にならなかった。それよりも、コナンの新型腕時計にUSBメモリがついていて、猫の首輪を思い出したり、海自なのでしつこいほどに出てくる旭日旗が、やはり現実のニュースを思い出してしまうという点は少し微妙だった。あと、犯人が海保の人なので、やっぱり海自と海保はあまり仲悪いんだろうか…とか(笑)


主題歌の斉藤和義は合っていたかと言われれば微妙。エンディングで蘭の救出シーンを思い返して涙するような歌をスキマスイッチが歌ってくれればなあ、と妄想。


とはいえ、やはり毎年これでいいかと問われると、本来皆が期待しているものをバッサリと切り捨てた今年のドラえもん映画と同様、微妙な部分もあるものの、これまでにないコナン映画として非常に記憶に残る作品となりました。

参考(過去日記)

⇒映画の出来不出来は別として、自分は、この文章を書けただけで大満足しています。それもあって昨年の映画は大好きです!

*1:よう太は一番面白かったシーンに挙げていた