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日本点字の成り立ちとタッチパネル〜小倉明『闇を照らす六つの星』

闇を照らす六つの星―日本点字の父 石川倉次

闇を照らす六つの星―日本点字の父 石川倉次

「闇を照らす六つの星」というのは、なぞなぞにも出来るような名タイトルですが、副題を読まずに何について書かれた本か言い当てたらなかなかすごいですね。
この本は、1901年に「日本訓盲点字」という形で国の制度として制定された日本点字の誕生から完成までに寄与し、その後も普及・改良にたずさわった石川倉次(1859〜1944)の伝記(児童向け)です。


「日本点字」とあるように、点字は世界共通のものではなく*1、日本点字は、50音(正確にはゐ、ゑを含むと48字)を6点で表現します。
単純に6点で文字を表そうとした場合、2の6乗の64通りの表現ができますが、点が全くないケースは何も書かれていないのと同じなので63通り。50音であれば問題なく表現できるような気もしますが、形が同じで位置がずれるケースは読みにくいため避けると44通りで、文字数よりも不足するのです。
この部分が日本点字の一番の課題で、これを克服するためにいくつかの案が出ます。
そもそも点字は、19世紀の始めに当時15歳だったルイ・ブライユ(フランス)が作り出して、イギリス・アメリカと広がったもので、これをそのまま用いてローマ字で使用してはどうかというのが第一案です。驚いたことに、当時、一部に、日本語もローマ字で表すべきだという説を唱えるひともいたというのです。(p90)*2
次に、文字数の制限を考えて6点を諦め、8点や9点で表現しようとするものですが、世界で使われている点字のための道具が使えなくなるという大きな問題があります。
そういった議論も経ながら6点点字による50音表記に絞られたあとも、生徒であった伊藤文吉と室井孫四郎による2案と、石川倉次の3案で東京盲唖学校内での選定会を行ない、教師、生徒が民主的に意見を戦わせた結果、石川案が採用されたのが1890年。その後、他の学校にも広まり、1901年に国の制度として制定されたのです。アメリカでは、ブライユ点字の導入時に、いくつもの改良形が現れ、それを主張する人達同士による「点字戦争」と呼ばれる混乱があったそうなので、石川倉次の努力と、東京盲唖学校内での熱心で民主的な議論は、混乱を防ぐと言う意味でも大きな意味があったのでしょう。
なお、「め」についての話が面白かったです。
点字の検討途中で、「点字こそは、光を失った視覚障がい者にとって、目に代わる重要なものだ」と考えるようになった倉次が、点字の六つの点がすべて打たれた形を見ていると。「目」という字に見えてきた。そのことがあって、6つの点すべてが並んだものを「め」と決め、そこから点字配列の作業を進めたというのです。


なお、本書の最後にも書かれているように、現代では中途失明者の増加もあって点字識字率は視覚障がい者全体の10〜20%とのことです。自分がもし目が見えなくなったとしても、今から訓練によって点字を読み取ることができるようになれるか自信がありません。読書も、必然的に録音図書中心になって行くのでしょうし、文章を書くだけなら音声認識に頼るでしょう。ただ、受験など点字を使わざるを得ないシーンも多々あるのは確かで、やはり訓練していくことになるのでしょうか。
また一方で、視覚的に便利なものが増えすぎている感じはします。特にスマートホンをはじめとするデジタル端末は、ボタンがなく、画面認識を視覚に頼るものであり、視覚に障害があれば使うのはかなり難しいと思います。と思って検索すると以下の記事を見つけました。

やはり必要は発明の母というか、ツイッター用のアプリまで出ているとは想像もしませんでした。まさに、現代においても、石川倉次のような人達の努力によって、世の中が良くなっていることを実感します。
記事でも書かれているように、色々な部分にバリアがあるのだということは、自分も意識するようにしたいです。


子どもの頃から伝記の類をあまり読んだことがないのですが、児童書ということでなかなか読みやすく、当時の議論の様子も分かりやすい良い本でした。
なお、図書館児童書コーナーには点字を理解するための本が多く、我が家の子どもは暗号が好きなこともあり、以前、以下の本を楽しんで読んでました。『闇を照らす六つの星』の中では「かな」の表現が中心ですが、実際には、日本語の中では、数字やアルファベット、また、濁音、半濁音、拗音、促音も使われるので、その表現についても分かりやすく学ぶことができました。

点字って、なに? (点字1)

点字って、なに? (点字1)

町の点字をしらべよう (点字3)

町の点字をしらべよう (点字3)

今さっき気がつきましたが、上で取り上げた点字アプリの長谷川貞夫さんが理事を務める社会福祉法人桜雲会が作っている本です。
調べてみると、長谷川貞夫さんのことを扱った記事は他にもたくさんあり、アプリ関連についえては、以下のインタビューが非常に詳しいです。

私の希望は「福祉のために健常者が点字を覚えてくれれば嬉しい」などというレベルではありません。点字はとても合理的な符号であり、便利なモノとして健常者がもっと活用してくれることを望んでいます。その上でのお話ですが、スマートフォンは振動させることができるわけですから、日本に2万2千人いると言われている盲ろう者にとっても今後福音がもたらされるようになって欲しいですね。

驚きました。
長谷川貞夫さんの今後の活動について注目するのと合わせて、点字の活用についてもっと目を向けたいと思います。

*1:手話も世界共通ではありません

*2:一方、漢字を覚えることが学習上の大きな負担だと考えて漢字を廃止して、全てを「かな」で表現すべきとする考え方もあり、福沢諭吉前島密が主張していたようです。この考え方を唱える会「かなの会」に石川倉次も参加していました。