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好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

暗黒のビットワールド?〜いとうせいこう『ノーライフキング』

ノーライフキング (河出文庫)

ノーライフキング (河出文庫)

この小説も20年くらい前に読みたい本リストに入れてそれっきりだったもの。
いとうせいこうは、今年16年ぶりに出した小説が絶賛されていることもあり、いい機会だと思い、読んでみた。
あらすじは以下の通り。

小学生の間で空前のブームとなっているゲームソフト「ライフキング」。ある日、そのソフトを巡る不思議な噂が子供たちの情報網を流れ始めた。呪われた世界 を救うため、学校で、塾で、子供たちの戦いが始まる。そして最後に彼らが見た「キング」の正体とは?発表当時よりセンセーショナルな話題を呼んだ、著者圧倒的代表作。


ちょうど、日曜日のフジテレビ『僕らの時代』という番組に出演していて、共演したバカリズム小林賢太郎から、どれがメインですか?と聞かれていたが、それほど、いとうせいこうには肩書きが多い。
自分が一番よく知っているのは、毎週金曜日のEテレ『ビットワールド』の進行役として。この番組は始まって12年の長寿番組で、自分は5年くらい前から見続けているが、視聴者を巻き込んだ生放送を定期的に行なうなど、子ども向けとは言え、かなり実験的な番組。
次によく知っているのは、ビットワールドにも出ていた池ちゃん(池田貴史)の別の顔であるレキシに参加しているミュージシャンいとうせいこうだ。この人の音楽は知識として知っているだけで、実際の作品をよく聴くようになったのは、レキシ経由。
そして、小説家…と言いたいところだが、自分の世代なら、いとうせいこうは「16ビット」の人だと認識しているような気がする。つまり、セガのゲーム機器「メガドライブ」のCMに出ていた人だ。
これだけマルチに活動している人ということで、小説に対する期待は高まる。


しかし、この小説。
時代性が強く出過ぎていることや、当時は新鮮だったであろう少し先の未来の描写が、今から見るとやや当たり前になってしまった一方で、、ラストで核の部分がぼかされていることから、面白いかと問われればよく分からなかった。多用される「リアル」という言葉の語感も、今とはだいぶ変わっているだろう。子どもたち同士のネットワークでの繋がりや、生きた証を言葉で残そうという感覚は非常に2013年現在にも共通するものがあるが、ゲームを相手に、世界を相手に、涙を流しながら戦いを続ける主人公たちの感覚に素直に共感できなかった。
2008年の文庫版解説に書かれた香山リカの解説も、やや手前味噌で統合失調症と結びつけて語り過ぎていて、これもよくわからなかった。
ただし、この本で中心的に書かれている「小学生の噂話」というモチーフは、ビットワールドという番組で何度も何度も使われている題材で、そこのところには興味が湧いた。番組にどの程度いとうせいこうが関わっているのかは分からないが、ノーライフキングから、自分が共感できなかった切迫した緊張感をなくしたものが、ビットワールドだともいえる。逆に言えば80年代の「噂」がまとう空気は、そこまで個々の噂話を信じて深刻に悩んだり、自殺者が出たりするほど重苦しいものだったのだろうか。


当時書かれたいとうせいこうのあとがきにもある通り、次作のワールズ・エンド・ガーデン(1991)とは、少なくともテーマ的なつながりがあるようなので、これを読んだら少し分かるのだろうかとも思う。しかし、時代を映し出すのが得意な作家なのだろうから、やはり新作『想像ラジオ』を急いで読みたい。

想像ラジオ

想像ラジオ

ワールズ・エンド・ガーデン (新潮文庫)

ワールズ・エンド・ガーデン (新潮文庫)