Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

深く楽しい「さわる文化」の世界〜広瀬浩二郎・嶺重慎『さわっておどろく!点字・点図がひらく世界』

岩波ジュニア新書ということで、難解な部分もなく一気に読めた。
この本は、前回読んだ小倉明『闇を照らす六つの星』(日本点字の成り立ちについての本)からのAmazonオススメ本という流れで読んだが、視覚障害者にとっての点字というよりは、点字文化を中心に、全ての人が「さわる文化」を楽しみ育んでほしいという意図で書かれている。
1章で取り上げられるブラインドサッカーは、最近興味が出ている内容だし、2章の「さわる文化」を意識した国立民族学博物館の取り組みも非常に興味を持って読んだ。その意味で、自分の興味関心のニーズに合う読書だった。
この本は、天文学者の嶺重慎さんと、国立民族博物館准教授の広瀬浩二郎さん(13歳のときに失明)の共著で、1〜3章と「おわりに」を広瀬さん、「はじめに」と4〜5章を嶺重さんが執筆を担当しているが、基本的には、広瀬さんの意図が強く出た本で、嶺重さんは「見常者」としての立場から内容を補足しているような感じだ。
タイトルの「おどろく」は、その意味を明確にしたい部分では、「愕く」という漢字で示されている。

いろいろな物にさわる中で、自分は触覚の存在を忘れていたと悟るのが「愕く」です。眠っていた潜在能力を再発見するという意味で用いています。びっくりするという表面的な心の動きが「驚く」だとすれば、「愕く」はもっと深い身体的な感動です。(2章p44)

また、この本では、健常者、視覚障害者という呼称を、見常者、触常者というかたちに言い換える場面が多く出てくる。障害、障碍、障がいのどれがいいか等という議論がよくされるということについても、広瀬さんは以下のように述べている。

ここ数年、「障害」の表記に関する種々の議論が繰り返されています。「害」の字が否定的なニュアンスを持つので平仮名にすべきだという「人権」思想に基づき、役所等の文書では「障がい」「しょうがい」を使用するケースが増加しました。しかし、「がい」や「しょうがい」そのものには何もポジティブな意味がありません。そもそも障害とは、社会の多数派が少数派に貼りつけたレッテルです。漢字を仮名に置き換えるだけの事勿れ主義でなく、障害という一方的な強者の論理を克服することが、21世紀を生きる僕たちの真の目標であるはずです。
僕は晴眼者/視覚障害者の陳腐な二分法に対し、「見常者=視覚に依拠した生活をする人」「触常者=触覚に依拠した生活をする人」という新しい呼称を提案しています。「さわる文化」は障害の有無を超越する人類共通の財産であり、その復権が今こそ求められているのではないでしょうか。(2章p56)

本書でもコラム的に触れられているが、自分は、2年前に参加したダイアログインザダークでの強烈な印象(さわる文化の初体験)があるので、こういった考え方には強く共感するし、そういう興味の持ち方でこの本を通して読むことができた。
しかし、広瀬さんが提案されるように、もう少し「さわる文化」や点字という発明について広く知られる世の中になってほしいし、自分ももっと勉強していく必要があると感じる読書だった。こういった文化にこれまで触れることのなかった人にこそオススメの本です。

本書内で紹介のあった「次に読む本」

サッカーボールの音が聞こえる―ブラインドサッカー・ストーリー

サッカーボールの音が聞こえる―ブラインドサッカー・ストーリー

→中途失明者の主人公が、ブラインドサッカーに出会い絶望から立ち直るノンフィクションとのことで、読みやすそうですね。

手話の世界を訪ねよう (岩波ジュニア新書)

手話の世界を訪ねよう (岩波ジュニア新書)

→やはり読みやすさなら岩波ジュニア新書は安心のブランド!手話の世界自体には今のところそれほど興味が湧かないのですが、だからこそ読んでみようかと。

天文学入門―カラー版 (岩波ジュニア新書 (512))

天文学入門―カラー版 (岩波ジュニア新書 (512))

→これも岩波ジュニア新書。ろう文化や点字とは無関係で、著者の嶺重さんの専門である天文学の本。4章で紹介されているマルチモーダル図書(同じ内容の情報に複数の手段でアクセス可能)の原本となったのがこの本とのこと。

ヘレン・ケラー―暗闇から光を投げかけた愛の天使 (小学館版 学習まんが人物館)

ヘレン・ケラー―暗闇から光を投げかけた愛の天使 (小学館版 学習まんが人物館)

→ヘレンケラー関連本として紹介されていたのは別の本ですが、自伝の類は読み切れる自信がないので、漫画で読んでみたい。

点字トランプ 3組セット

点字トランプ 3組セット

点字入りトランプを使った暗闇トランプ(ババ抜き)なども楽しそうです。が、ズバリ、点字は読めないでしょう。