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気軽に読めるが出口は遠い〜永井均『子どものための哲学対話』

子どものための哲学対話 (講談社文庫)

子どものための哲学対話 (講談社文庫)

日経新聞の日曜版で連載されている永井均「哲おじさんと学くん」に関連して、コメント欄でkeyillusionさんから紹介された一冊。

  • 文庫本で薄い
  • 内田かずひろによる漫画やイラストが頻繁に挟まる
  • ひとつの話は数ページで終わる

ということで、とにかく読みやすさは抜群。
しかし、その特徴ゆえに、普通の読書では味わわない変な「食い足りなさ」を読後に残してしまう。
上に挙げた特徴は、そのまま以下の欠点になり、それこそが作者の狙いなのだろう。

  • 個々のテーマを語るにしては内容が薄い
  • イラストは「読みやすさ」と一部の「分かりやすさ」は与えてくれるけど、理解の本質ではない。
  • 3章39話に分かれた話は、配置もかなりバラバラで、一つのテーマを連続して考えるような構成になっていない。

上の3つに挙げた欠点のうち、最後のものに顕著だが、一言でいえば、「分かりやすさ」を装った不親切がこの本の特徴。本の側では深く掘り下げてくれないので、読んでいる側で、自分の頭を使って考えろ、ということだ。


それぞれの話は「分かる分かる!」と「???」が不規則に並べられているような感じで、面白そうと思って登りかけても、すぐに梯子を外される。
最初に書いた通り、こういった読後感は、むしろ作者の狙い通りのようで、終章で、ペネトレ(猫)が以下のように述べている。

こういうはなしは、どれも、たまたまある場所に立った人にだけ、意味を持つんだ。別の場所に立っている人には、無意味で、ただごちゃごちゃしているだけなんだ。図形に一本の補助線を引くだけで、急にその図形の見えかたが変わることがあるだろう??ぼくのはなしは、補助線みたいなものさ。その補助線が引かれることで、ある人には、世界と人生の見えかたが変わるけど、別の人には、なにも変わって見えない。
(略)
つまり、この本のほんとうの意味っていうのは、この本の読者のひとりひとりにとって、それぞれちがっていていいのさ。だいじなことは、自分で発見するってことなんだ。
p126-127


自分で発見するには能動的に動きはじめなくてはいけない。ここで挙げられたような課題について真面目に考えることが一つのやり方だろう。でも、一方で自分は怠慢だし、正攻法でなくても何とか「発見」に辿りつく道はあるような気がしてる。ここは一旦考えるのをやめて、課題だけを脳内に浮かぶ雲に差し込んでおこうと思う。こういうのは本の中じゃなくて、生活の中で考える方が良いだろうとも思う。


ここで、特に「お!」と思ったペネトレ(猫)の言葉を抜粋。

もし、きみ自身が深くて重い苦しみを味わったことがあるなら、それとおなじ種類の苦しみを味わっている人だけ、きみは救うことができる可能性がある。そういう場合にだけ、相手が助けてもらったことに気がつかないような助けかたができるからね。
(略)
これだけは覚えておいてくれよ。自分が深くて重くなったような気分を味わうために、苦しんでいる人を利用してはいけないってこと・・・。
p36「こまっている人を助けてはいけない?」

(元気がでないときは)まず第一に、元気が出ないほんとうの理由や原因を、いちど徹底的に考えなおしてみるんだ。理由や原因をあいまいにしておいてはダメだよ。(略)
第二に、もうそのことは、くりかえして考えないことにする。そしてなんでもいいから、ほかのことに没頭するんだよ。別の喜びを見いだすんだよ。(略)
だいじなことは、いきなり第二のやりかたでやってもダメだってこと。必ず第一の作業をへてから第二の作業に入るってことだな。
p59「元気が出ないとき、どうしたらいいか?」

人間は自分のことをわかってくれる人なんかいなくても生きていけるってことこそが、人間が学ぶべき、なによりたいせつなことなんだ。そして、友情って、本来、友だちなんかいなくても生きていける人たちのあいだにしか、成り立たないものなんじゃないのかな?
p69「友だちは必要か?」

ちゃんとした人っていうのは、自分の未来のために自分の現在を犠牲にできる人のことなんだ。(略)
ネクラな人や下品な人がちゃんとした人になるにはね、なにか人生全体に対する理想のようなものが必要なんだな。(略)
ネアカな人や上品な人はちがうよ。そんなものなしに、未来の遊びのための準備それ自体を、現在の遊びにしちゃうことができるんだよ。他人のための奉仕それ自体を、自分の娯楽にしちゃうことだってできるさ。
p75「なぜ勉強しなくちゃいけないのか?」


今回、あとがきで、ぼくとペネトレが対話を続け、ちょっとした種明かしみたいな話も出るのだが、本編と比べてかなり難しい内容で、それほど長い文章ではないにもかかわらずリタイアしてしまった。
時に、短い文章を咀嚼し吟味し、味わっていく必要があるのは分かっているが、その前に、もう少し哲学本丸の周辺エリアを探索してみたい感じ。もっと他のも読んで、永井均に与えられた試練に少しずつ挑戦してみよう。(一応、次回は、何故かタイトルが酷似している以下の本を狙っている…)

<子ども>のための哲学 講談社現代新書―ジュネス

<子ども>のための哲学 講談社現代新書―ジュネス