Yondaful Days!

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物語を盛り上げる巧みなルール!〜R・L・スティーブンソン『びんの悪魔』

びんの悪魔 (世界傑作童話シリーズ)

びんの悪魔 (世界傑作童話シリーズ)

ついこの前、金原瑞人訳のバージョンを読んだばかりだったが、物語の雰囲気にピッタリの装丁に惹かれて再読。
児童書ではあるものの、このイラストと後述する解説のボリュームもあり、とても満足した。(なお、とても短い話なのに、一番のポイント部分のストーリーを忘れてしまっており、そのことはショックだった)
なお、このイラストは磯良一さんによるもので、スクラッチという手法によるもの。*1


読み返すと、物語の中心にある「びん」にまつわるルール設定が非常に絶妙であることを、改めて知る。
つまり、望んだことは何でも叶えてくれる「悪魔の入ったびん」を手離すためには、以下のルールを守らなくてはならない。(守らない場合、戻ってきてしまう)

  • 購入したよりも低い金額で売る
  • 硬貨を使った取引をする
  • 「びんの悪魔」については買い手に納得してもらう

いわば「魔法のランプ」のような「びん」を手離すためのルールが何故あるのかといえば、持ち主が、びんを売る前に死ぬと、永遠に地獄の炎で焼かれてしまうからだ。
(なお、手に入れたものに満足していないと、災いが振りかかる、というルールもあるため、欲の強い人は、途中でびんを手離すことによって、かえって不幸になる)
したがって、誰もが最後の所持者にならないように振る舞い、価格が低くなればなるほど最後の所有者に近づく。


主人公ケアウエは、このルールにしたがって望み通りの理想の住まいを手に入れたあと、帆船を熱望する友人に事情を説明し、一度はびんを手離すことに成功する。
その後、たまたま出会ったコクアに一目惚れし婚約、という幸せの絶頂期で不治 の伝染病(中国の悪魔)に罹り、これを治すため、びんの悪魔の力を借りなくてはならなくなる。
自分が手離したときと比べると、かなり価格が下がっているビンは、買ったはいいが、誰も引き受けてくれる人がいない。そこから始まるスリリングな展開が見どころ。


今回、この終盤の展開を読んで、鈴木光司『リング』を思い出した。いや、厳密に言えば全く異なる内容だが、「ルール」がラストまで未知か、序盤で知らされるかの違いだけで、これは元ネタなのでは?と思うくらい、読んでいる途中の印象は似ていると思う。
確か、鈴木光司は、物語を構造的に捉えて理論的に作りあげる人なので、『びんの悪魔』を現代アレンジして『リング』を作っているのではないか、とすら思った。*2

リング (角川ホラー文庫)

リング (角川ホラー文庫)


驚くべきは、この物語が『リング』の120年前に、『宝島』や『ジキル博士とハイド氏』で知られるR・L・スティーブンソンによって書かれた話だということだ。(1891年発表)
そこら辺の話は、訳者のよしだみどりさんによる丁寧な解説に詳しい。
ティーブンソンは、実際、サモアに豪邸を建て、ポリネシア語に訳された『びんの悪魔』を読んだ人々は、きっとあの立派な家は小びんの力を使っていると噂し合ったというエピソードは面白い。
また、父方の祖父は“世界の灯台の父”と呼ばれ、日本の灯台も数多く設計したことから、日本人とのつきあいもあり、吉田松陰の伝記も書いたのだという。この辺りもエッセンス的に色々な内容が書いてあったが、折角なので、本人の手による、以下の本を読んでみたい。


なお、邦題は字面では『びんの悪魔』だが、音でいえば『小瓶の悪魔』の方がしっくりくる。原題は『The Bottle Imp』でImpというのは以下のようなものらしい。

インプ(imp)とは悪魔の一種である。
体長は10cm程で大きくても人間の子供くらい。全身が黒く、充血した目をしており、ピンと尖った耳に、ぽっこりした腹をし、鉤のある長い尻尾を持った姿をしている。
インプは挿し木など枝を意味し、種から育ったわけでもなく果実を実らせることから、魔術的な意味があるといわれていた。当初は、妖精に分類されていたが、16世紀頃になると、学者たちによって悪魔に分類されその後、頭髪がなくなり、角や蝙蝠のような翼が加えられた。

物語の中では「小鬼」や「鬼」という言葉も使われていた。
ファンタジー系の本を読むことは多くはないが、鬼、悪魔の中でも様々な差があるようなので、『幻想世界の住人たち』あたり で勉強してみたい。

幻想世界の住人たち (新紀元文庫)

幻想世界の住人たち (新紀元文庫)

*1:クラッチという手法については、本人のインタビュー記事が分かりやすい気がします。>雑誌TALENS CLUB“プロの机”

*2:結局、ググっても、そのような記述は見当たらないので、ただの思い過ごしなのだろう。なお、「リング、元ネタ」でググって引っ掛かったこちらのブログ記事が面白かった。聖地巡礼行ってみたい。>http://ameblo.jp/dr-hirokon/entry-10886599565.html