Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

ゲーム愛×鋭い分析〜ブルボン小林『ジュ・ゲーム・モア・ノン・プリュ』

ジュ・ゲーム・モア・ノン・プリュ (自腹文庫)

ジュ・ゲーム・モア・ノン・プリュ (自腹文庫)

ブルボン小林の本を読むのは初めて。(長嶋有名義はもしかしたら一冊読んだかもしれない。)
ラジオ番組のpodcastなどで、コラム的に漫画のことを語っているのを聞き、独特の雰囲気がずっと気になっていたが、ザ・岩波文庫(本当は自腹文庫w)の装丁に惹かれて著書を読むことになった。


ということで中身については全く知らずに読み始めると、2002〜2004年くらいまでにゲーム雑誌の連載記事をまとめた本だった。2歳違いで年齢が近く、特に、ファミコンセガMSXなどの懐かしいゲームを題材にしているものが多く、頁をめくる手が止まらない。300頁あるので、決して短くはないのにも拘らず、読みおわるのが惜しいと何度も思う本となった。


ファミコンネタは、同世代としては、実は「何となく」盛り上がれるテーマという意味で、ずるい側面があり、警戒したところもあったが、この本は安易な本ではなかった。
例えば、「何となく」「懐かしんで」「盛り上がる」ために「クソゲー」の烙印を押された冤罪被害ソフト(スペランカーバンゲリングベイ)について、擁護する立場から紹介をする。p29
逆に、名作の誉れ高いチュンソフトサウンドノベルシリーズ『街』についても、ダメなシナリオについては以下のように手厳しい。

ゲームのシナリオについて「たかがゲームとは思えない優れた内容」なんて言説がされるけど、そんな物言いはするべきではない。ゲームとか関係なく、優れているかどうかだけを考えるべきだ。「ゲームであること」に甘えてはいかん。p198

今のソフトにも昔のソフトにも、自分の感覚を信じて、ゲームと真摯に向き合う真面目さが、この本を面白くしているのだと思う。


内容について引用しだすとキリがないので、最小限にしたいが、この本の良いところを整理すると以下の3つだと思う。

連載記事の「生」な感じがパッキングされている

基本的に、ゲーム雑誌『CONTINUE』の連載記事をまとめたものなので、書き下ろしとは全く異なるライブ感がある。
例えば、発売が予定されている『フロッガー』というゲームに対して、発売が延期になると予想して、実際に延期になって、これは中止になるかも、と思ったら、いつの間にか発売されていた…などという数回に渡る流れは連載ならでは。また、ブルボン小林本人の中で流行っている「怒られゲー」(プレーヤーがゲーム中の人物に怒られるゲーム)について、繰り返し言及がある部分などは、雑誌を引っ張り出してきて連載記事を読み直している気分になれた。つまりは記事掲載時のゼロ年代前半に身を置くことができた。

気づくことができなかった個々のゲームの良さを指摘

切り口の巧さは本当に感心しきり。ぬるい雰囲気が続いても、時々ジャストポイントな指摘があり痺れる。批評家というのは、こうあるべきだと思う。

ゲームに関する鋭い指摘が多数

個々のゲームではなく、ゲーム全体についての指摘も鋭い。また、そこからゲームへの愛が伺える。

  • 検非違使となって、月下の朱雀通りを駆ける。今、ゲームでなんでも表現できるようになって、(迷路が碁盤状にしか描けないから仕方なく舞台が平安京になった『平安京エイリアン』のような)そんなイカした設定はむしろ生まれなくなってしまった。我々は表現の自由を追いかけながら、何かを思い出すチャンスを引き換えにしている。p18
  • ゲームはかつて観光だったのだ。『スカイキッド』『シティコネクション』に自由の女神が、『ボンジャック』にスフィンクスが描かれていたのは、ゲームの観光性をいみじくも語っている。結末(エンディング)ではなくて、道中を楽しむ。それがゲームだったp26
  • ゲーム業界で日本が世界的に躍進したのは、二頭身でも目が大きくても、それがなにがしかのキャラクターであると「みなすことができる」能力〜デフォルメ文化を持っていたからである。(80年代初めの和製ゲームはペンギンが主人公のものがとても多かった原因はそこにある) p89、p245
  • 『グランドセフトオート3』のようなゲームを子供に買い与えても、僕はよいと思う。ぜひぜひ一緒に遊ぶべきだ。(略)ただ、変なことをしたら背後で笑ってあげよう。主人公が人を一人轢き殺すたびに、街灯を一つ倒すたびに、ゲラゲラ笑ってやる。「なにやってんだ馬鹿、あーあ」と。それで十分、ゲームは虚構なのだと分かる。所詮ただのゲームであると、笑いでツッコミをいれるのだ。(略)笑いは己の内に宿る残酷な感情を客体化させる「視座」を授けるはずなのである。p126

なお、ここら辺の切り口の面白さと文章の読みやすさから、米光一成さん(ぷよぷよのゲームデザイナーで知られる人。自分はこの人の書評が好き)を思い浮かべていたら、ちょうど本書の中で対談が載っていてびっくりした。


というように鋭かったり真面目だったりする部分もあるはいえ、全体的には、くだらない内容で肩の力を抜いて読めるのがいい。『ときめきメモリアル Girl's side』の女主人公の名前をどうしようか?とかどうでもいい話題も多数。
やっぱりゲームやりたいなあ。と久しぶりに思ったのでした。

過去日記

⇒思い返すと、『ニンテンドー〜』も米光一成さんの書評がきっかけで読んだ本。ところで、『ジュ・ゲーム〜』には、任天堂のゲームの紹介は少なく、スーパーマリオクルクルランドくらい。『ニンテンドーイン・アメリカ』によれば、クルクルランドと同時期に出たデビルワールドは、悪魔がメインキャラクターということで米国では発売されなかったそうです。クルクルランドは持ってた…。デビルワールドは友だちの家でよく遊んだ…。