- 作者: 藤子・F・不二雄
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/09/24
- メディア: コミック
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今回、手塚治虫(火の鳥)の間に、藤子・F・不二雄の作品を読んでみたことで、両者の違いが際立って感じられた。
手塚漫画が、作者の自己主張が強過ぎるのに比べると、藤子・F・不二雄は、作品内に、作者の影をほとんど見せずに、「少し・不思議」の演出に集中する。
日本の漫画界を自分が切り拓いているという自負もあるのだろう。手塚漫画は、実験的なコマ割り、ヒョウタンツギなどの楽屋ネタ、そして何より「書き文字」で、作者が強く自己主張をする。(作者本人も漫画内に頻繁に登場する)
F先生の漫画は、楽屋ネタが無いのは勿論のこと、コマ割りはオーソドックスで、書き文字は、擬音以外はほとんどない。どんなに登場人物が強く思い悩もうとも、書き文字が出てこないのは、手塚漫画との、見た目上の最も大きな違いだと思う。(A先生は、F先生に比べると、手塚治虫に近いと思う)
そんな風に考えていくと、今回収録された9作品全てが悪い結末を迎えないのは、おそらくF先生の人柄の良さがそのまま出ているのだろう。
「十五少年漂流記」を下敷きにしつつ「」の一歩手前まで行く「宇宙船製造法」も、結局は、全員が無事に地球に帰還できそうだ。吸血鬼パニックものに見せかけて、意外にもラストはふわっとした感じに終わる「流血鬼」なんかは、手塚治虫には書けないフラットさがある。ドラエモンの劇場版もだが、「ふたりぼっち」など、パラレルワールドものが上手いのは、自分の世界に固執し過ぎないところがあるからなのかもしれない。
逆に言えば、手塚治虫の漫画は、「火の鳥 鳳凰編」の我王が「怒!」「怒!」と言いながら掘る石仏のように、燃えさかる炎のような負の気持ち(それは手塚治虫自身の曲げられない信念)が漫画の核の部分にあり、F先生とは完全に別物だ。両者の漫画は、燃料が全く違うが、どちらも読み手に訴えかけるものがある。
過去に単行本で読んだものも多かったが、今回、旅行に行った山寺を思い浮かべながら読み返す「山寺グラフィティ」は、特に感慨深かった。この作品集には、主人公が意識していた女の子が死んでしまう話として、この「山寺グラフィティ」と「おれ、夕子」という2作品が収録されているが、どちらも故人を偲びつつ前を向いて終わる終わり方で、本当に上手いと感じさせる。
次回、山寺を訪れることがあれば、きっと、こけしを見てこの物語を思い出すに違いない。
元ネタ等
9作品全てについて、元ネタや関連作品が並べられている大森望の解説のサービス精神が素晴らしい。気になる作品のみ抜粋
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過去日記
⇒全く期待せずに見た今年のドラえもん映画は面白かった。自分の文章ですが、この文章は好きです。
- アニメも見返してみたい!〜藤子・F・不二雄大全集『エスパー魔美』(1)(2011年11月)
⇒同じ大全集からですが、「エスパー魔美」は誰にでもオススメできる名作ですので、大人の人こそ、是非読んでみると良いと思います。
- “ドラえもん愛”溢れる優しい小説〜辻村深月『凍りのくじら』 (2012年1月)
⇒F先生なくしては生まれなかった、この小説も非常に良かったです。