Yondaful Days!

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「みんな違ってみんないい」では足りない〜東田直樹『自閉症の僕が跳びはねる理由』

自閉症の僕が跳びはねる理由―会話のできない中学生がつづる内なる心

自閉症の僕が跳びはねる理由―会話のできない中学生がつづる内なる心

副題「会話のできない中学生がつづる内なる心」が示す通り、自閉症の東田直樹(当時中学3年生)さんが、自閉症という病気についてよくある質問に対して回答するかたちで編集された本。
自閉症については、ずっと前に見た映画『レインマン』以外では、漫画『光とともに』で知っていた程度で、それほど身近ではなかったし、それらの作品は、家族の側から描かれた部分がメインで、本人が世界をどう感じているのか、という部分は分からなかった。
一方、障害者本人からの視点での本と言うと、これまで視覚に障害を持った人の書いた本を何冊か読み、共通して「(障害のありなしに関わらず)人によって見える世界が違う」ということを知った。そういう意味では、この本の感想も、その延長上にあることを想定していた。
しかし、読んでみると、見える世界が違う、という以上に、思いを適切に伝える手段を持たないということが想像以上に辛いことだということが分かった。それこそ「みんな違って、みんないい」では済まない、圧倒的なハンデを背負っていることを感じた。


この本自体は6年前の本だが、今年の7月に英国で発売されてからベストセラーになったということで、何度かネットのニュースで取り上げられた。実際、この本を知ったのは、イケダハヤトさん*1が、そのニュースを取り上げたBLOGOSの記事だったと思う。
この本を英訳したのは、『クラウド・アトラス』や『ナンバー9ドリーム』などの著作で知られる英国人小説家のデイヴィッド・ミッチェルで、そのインタビュー記事から一部を引用する。

  • この本は私たちにとって、本当に役立つと感じられる初めての本でした。自閉症の少年が、自閉症とはどういうものなのか、内側から書いているのです。センチメンタルに聞こえるかもしれませんが、自分たちの息子が初めて自分が感じていることを語ってくれたと感じたほどでした。
  • この本を読んだおかげで、私は自分の息子に対する見かたが変わりました。もうそこにいるのは自閉症の子供ではありません。自閉症のなかにいる少年が見えるようになりました。そう見えてくると、暗い気持ちもなくなってきます。どうすれば、息子を覆っているこのバリアに穴をうがつことができるだろうか、といったことを考えられるようになるのです。


イケダハヤトさんの記事にも書かれているが、この本の中での質問に対する回答で、「認めてほしい」ということ以外に「助けてほしい」ということが率直に書かれていることが特徴で、そのことが強く印象に残った。

社会が「みんな違って、みんないい」と言ってくれるようになれば、発達障害の人たちは幸せに生きられるのでしょうか。

僕は、そうとも限らないと思っています。

発達障害者への理解が進めば、僕たちも社会の一員として生きていきたいと強く望むでしょう。しかし、違いを認めてくれたとしても、みんなのようにできない人たちが、社会のなかで自立して生きることは、まだまだ難しいのが現状です。

障害者が生きていくためには、「みんな違っていいのです」の後に「どうか、困っている人たちに力を貸してください」という言葉を、付け加えてもらわなければなりません。

(中略)もちろん、本人にも努力は必要です。その努力を応援するには、多くの人たちの手助けがいると思います。それができるのが、立派な社会に違いありません。
(東田直樹さんの言葉)


また、巻末に収められた短編小説「側にいるから」は、このような障害を持った中学生が書いたとは思えない内容で、自分の内にある強い主張と、それを外から眺める客観的な視点との両方を持ち、文章として表現できることが、東田さんの強さだと感じた。


しかし、ここまでの文章を書き終え、他の記事を調べてみようと検索して、あまり想像していなかった方向からの批判があることを知った。
端的にいうと、かつて東田直樹さんが用いていたコミュニケーション手段は、直接ではなく、途中に東田さんのお母さんが介在するから、その言葉は、東田さん本人ではなく、お母さんから発せられた言葉ではないか、という話だ。その批判にしたがえば、この本も東田さんのお母さんが書いたことになる。
実際、このコミュニケーション手段については、過去に、別の障害者の方を特集したNHKの番組に関して話題になったことがあるらしい。*2


講演会でも常に母親が近くにいるということで、もしかしたらそういう批判にも一理あるのかもしれない。見たことのない自分には判断できないが。
その真偽は別として(東田さんはブログも書いているし、信じてはいるが)、自分にとって何よりショックだったのは、そのような批判が、実際に自閉症のお子さんを持つ方のブログでもなされていたこと。
いつもなら、自分がこの本から受け取った言葉や感想は変わることはないからと気にしなかっただろうが、このような批判を知り、改めてこの病気の一筋縄では行かない難しさを知った。
そして、それを知ったからこそ、こういった人たちに対して自分にできる部分があれば、少しでも手助けしたいと思った。

*1:以前、何度か文章を読んだことがあり、いけすかない奴と決めつけていましたが、夏にビブリオバトルのイベントで喋る姿を見てかなり好感度が上がりました。

*2: http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%87%E8%B7%A1%E3%81%AE%E8%A9%A9%E4%BA%BA