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好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

しっくりくるストーリーの3要素とは?〜眉村卓『ねらわれた学園』

ねらわれた学園 (講談社青い鳥文庫)

ねらわれた学園 (講談社青い鳥文庫)

ここ何回か連続して児童向けの小説を読んで感想を書いていて、いい大人が何やっているんだ、と思う人もいるだろうし、自分の中の何人かも同じことを言っている。
でも、そうじゃないんだ。
例えば、スッキリ読める作品よりも、違和感を抱くような作品の方が、あとに心に残りやすかったりする。自分はそういうスッキリしない気持ちを放っておけない。より自分にフィットする本や音楽に出会うためには、いろいろな作品に触れる以上に、自分の中を掘る作業が必要なのではないかと思っている。実際に作品を楽しむのは、他の誰でもない自分だから。
児童小説は、小3の息子に合わせて読んでいる面が大きいけれども、骨組の部分がシンプルだから、「自分が何を求めているのか」が分かりやすい。つまり、作品の文句を言っているのではなくて、自分の中にあるものを見つけるために、それを読み、文章化しているのです。
言い訳これまで。


さて、眉村卓の代表作で、何度もドラマ化、映画化されている『ねらわれた学園』。これは素直に良かった。
特に、何か物足りなさや違和感が残った『なぞの転校生』や『チョコレート・アンダーグラウンド』と比較すると、抜群に気持ちを乗せやすいストーリーになっている。その理由は大きく以下の3つがある。そして、この3つは自分が物語を評価するときに軸になっている部分だと思う。(勿論、それ以外に登場人物の魅力やアクション描写などが面白い小説には必要だが、ストーリーに絞るとこんな感じではないか)

(1)倒すべき敵が解りやすい

仲間を窮地に陥れたり、主人公の望まない方向に物事を進めたりする敵がいると、物語の焦点を絞りやすい。分かりやすいタイトルもあいまって、学園を狙うやつを退けなくては!という気持ちになる。
今回、生徒会長の立場から学園を牛耳ろうとする黒髪の高校2年生・高見沢みちるが最初から登場し、物語を盛り上げる。

(2)物語を引っ張る謎がある

今回、高見沢みちるの演説中に数人の生徒が倒れた原因が本当に超能力だったのかどうかで序盤引っ張って、その後、突飛な服装の京極という少年の登場でさらに謎が深まる。彼らは一体学園をどのようにしたいのか。
なぞの転校生』との比較で言えば、みちるが転校生では無く、一年前は目立たない生徒だったということが謎の面白みを増している。

(3)正義に酔いしれない

チョコレート・アンダーグラウンド』と『ねらわれた学園』は、その世界のリーダーが交代したことによって、少しでも風紀を乱す者が徹底的に取り締まられるようにルールが変わってしまうという点で、話の発端が似ている。しかし、チョコレートを禁止する側の論理がよく分からない『チョコレート〜』に比べると、『ねらわれた学園』は、最後の最後に、学園を牛耳ろうとする理屈が出てきて、それはそれで、もう一つの正義になっているところが良い。
通常、読者は主人公たちの立場を絶対的正義として信じるしかない。しかし、正義と悪というのは、それほど明確に区別できるものではない。そういった葛藤がストーリーに反映されている方がすんなりと物語世界に入り込める。


奇しくも、来年1月10日からテレビ東京で『なぞの転校生』のテレビドラマが始まるとか。しかも監督が岩井俊二
ドラマ24「なぞの転校生」:テレビ東京

予想に反して、なぞの転校生の名前は「山沢典夫」のままみたいだけど、岩井俊二ということで少し期待して見てみたい。山沢典夫のへたれっぷりも含めてトホホ感溢れる話をどうスタイリッシュにまとめるか楽しみ!


ということで、個人的に盛り上がりを見せる1970年代の学園ジュブナイルシリーズ。次回はやっぱり『時をかける少女』かな。