- 作者: エーリヒケストナー,ヴァルター・トリアー,Erich K¨astner,池田香代子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2006/10/17
- メディア: 単行本
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前から読みたいと思っていた小説だが、子ども時代に読む機会を逸して、そのままにしていたもので、今回初めて読んだ。もっと道徳科目っぽい、説教くさい話かと思っていたが、そうではなく、“ちゃんと面白い”話だった。
ボクサー志望のマッツ、貧しくも秀才のマルティン、おくびょうなウーリ、詩人ジョニー、クールなゼバスティアーン。個性ゆたかな少年たちそれぞれの悩み、悲しみ、そしてあこがれ。寄宿学校に涙と笑いのクリスマスがやってきます。
(Amazonの内容紹介)
小説が書かれたのは、ナチスが政権を握った1933年。その頃のギムナジウム(9年制の寄宿学校。日本で言えば小学5年生〜高校生までが一緒に生活する)を舞台に、仲良し5人組が迎えるクリスマスの話。
クリスマスや冬休みを多くの生徒が楽しみにしている空気が巧みに描かれているが、皆とは違った、辛い気持ちで、同じ日を迎える人もいる、という部分、つまり世の中は決して公平ではないという部分が強調されるようなつくりになっている。
特に、「お金」が、幸せ不幸せに影響してくるという現実が、児童小説にしてはしっかり書かれているのが特徴的だ。(『エーミールと探偵たち』も同じなので、ケストナーは意識して描いているのかもしれない)
お金に困っている人や、怪我をした人、精神的に追い込まれた人など、弱者の視点を常にどこかに配置しながら物語は進む。しかしあくまで前向きなストーリーとなっているという部分が多くの人に支持される所なのではないかと思う。
また、解説で、訳者の池田香代子さんが指摘するように、まさにナチスが台頭してきたとき、沈黙する同時代にむけて、命がけの警鐘を鳴らしたというのもすごいことだ。
- 平和を乱すことがなされたら、それをした者だけでなく、止めなかった者にも責任はある。(p142−クロイツカム先生の言葉)
- 世界の歴史には、かしこくない人びとが勇気をもち、かしこい人びとが臆病だった時代がいくらもあった。これは正しいことではなかった。勇気ある人びとがかしこく、かしこい人びとが勇気をもつようになってはじめて人類も進歩したなと実感されるのだろう。(p25−ケストナーによるまえがき)
こういった部分については、実際にケストナーがどういう人物なのかを知りたい。是非、伝記的にケストナーを扱っている本を読んでみたい。(なお、勇気については、作中で、ひとつ具体例が出てきて、それについて作中で、それが勇気と認められるかどうかが議論されているのが面白い。)
- 作者: クラウスコルドン,Klaus Kordon,那須田淳,木本栄
- 出版社/メーカー: 偕成社
- 発売日: 1999/12
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ケストナーの終戦日記―1945年、ベルリン最後の日 (福武文庫)
- 作者: エーリヒケストナー,高橋健二
- 出版社/メーカー: 福武書店
- 発売日: 1990/01
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最後に引用を。物語は、まえがき〜本編〜あとがきという構成で、まえがき、あとがきでは、本編の内容に補足的に付け加えている部分もあるが、基本的には、ケストナーの考えが述べられている。この「まえがき」が名文過ぎて、上にも少し引用したが、ほとんどの部分を引用したいくらいだ。どの部分も、子どもに向けた優しい(ときに厳しい)気持ちが込められている。
生きることのきびしさは、お金をかせぐようになると始まるのではない。お金をかせぐことで始まって、それがなんとかなれば終わるものでもない。こんなわかりきったことをむきになって言い張るのは、みんなに人生を深刻に考えてほしいと思っているからではない。そんなことは、ぜったいにない!みんなを不安がらせようと思っているのではないんだ。みんなには、できるだけしあわせであってほしい。ちいさいおなかが痛くなるほど、笑ってほしい。
ただ、ごまかさないでほしい、そして、ごまかされないでほしいのだ。不運はしっかり目をひらいて見つめることを学んでほしい。うまくいかないことがあっても、おたおたしないでほしい。しくじっても、しゅんとならないでほしい。へこたれないでくれ!くじけない心をもってくれ!
思春期のまっただ中を懸命に生きる少年たち、そして、懸命に生きた大人たち、両方の視点があるので、誰が読んでも共感しやすい本で、楽しくもあり苦くもある本。
寒い冬休みに読むにはピッタリの内容でオススメです。
(岩波少年文庫版は、池田香代子さんの解説もとても良かったです)