Yondaful Days!

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2014年の抱負〜横山秀夫『クライマーズ・ハイ』

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

成人の日にNHKで、世代で分かれて意見を出し合う討論番組(『シリーズ日本新生 ニッポンの若者はどこへ? 徹底討論 大人の心配×若者の本音』)を見た。
視聴者として、大人×若者のどちら側に入るのかを考えるが、自分はさすがにAKBの高橋みなみと同じ世代ではない。かといって、ローソンの新浪CEOとも世代は異なる。
こういうとき、以前は、のほほんと「大人批判」の立場に立っていたのだが、最近は「大人という自覚を持つべき」「批判にどう答えるかに思いを巡らせるべき」と、少し真面目に考えるようになった。
番組の内容自体は、若者側に夢を叶える意識の高い人の割合が多くて、いまいち参考にならなかった*1が、番組の内容と無関係に、自分は年相応の「大人」になっているのか、と考えてしまっていた。


また、先日、法事で親戚一同が集まったときも、ついこの前まで赤ちゃんだった子ども達が大きくなっていることに驚かされ、自分も同じだけ年を重ねていることを改めて知った。
さらに、初めて最初から最後まで見た2013年の紅白歌合戦で耳に残ったきゃりーぱみゅぱみゅのアルバムを聴いては『ふりそでーしょん』の歌詞に何故か動揺する。

オトナになったら うれしいの?
オトナになったら 悲しいの?
なにするの?なにができるの?
いましかできないの?

そんな中、読んだ『クライマーズハイ』は、意図せず、自分の年齢と向き合う小説となっていて、とても苦い読書となった。
〜〜〜

1985年、御巣鷹山日航機が墜落。その日、北関東新聞の古参記者・悠木は同僚の元クライマー・安西に誘われ、谷川岳に屹立する衝立岩に挑むはずだった。未曾有の事故。全権デスクを命じられ、約束を違えた悠木だが、ひとり出発したはずの安西はなぜか山と無関係の歓楽街で倒れ、意識が戻らない。「下りるために登るんさ」という謎の言葉を残して――。若き日、新聞記者として現場を取材した著者みずからの実体験を昇華しきった、感動あふれる壮大な長編小説。

墜落事故に関する新聞記者が主人公の話だということは知っていた。
また、そのタイトルから登山が関係する話だということも想像していた。
実際に、読んでみると、確かにその通りで、1985年の日航機墜落事故をベースに話が進みながら、それとは異なる時間軸で、「魔の山」と呼ばれる谷川岳の衝立岩登攀の話が挟まる。
この小説の巧いところは、両者の絡み合いが、主人公の新聞記者・悠木の心の強さを描ききっている部分。物語の中での成長を描いているのではなく、これまで成長してきた40歳の男として、主人公がいる。
それこそが、自分が苦く感じた部分だ。


もともと、エンタメ小説だと思っていたが、それは勘違いで、読者を喜ばせるようなサービス精神はあまりない。
特に、クライマックスの一つである事故原因に関する特ダネの部分は、小説の中でもさんざん煽っておいて最終的には悠木の判断で特オチ。まるで騙し討ちのようで、一気に気持ちが暗くなる場面だ。
また、読者投稿欄を巡る悠木の考えは、勿論、上毛新聞の記者だった作者自身の自己批判も入っているのだが、その批判が読者にも向けられているように思える。

投稿欄の常連が綴る遺族への同情。想像しただけで悠木は憂鬱な気分になった。常連が悪いと言っているのではない。彼らこそが新聞の最たる理解者であり、頼もしい支援者でもある。しかし、その一部に質の悪い輩が混じっていることもまた確かなのだ。
彼らは何かに憤ったり感じ入ったからペンを執るのではない。常にペンを握り締め、鵜の目鷹の目で「書く材料」を探している。借り物の意見と文章を駆使して、すべての事象を「愛」と「正義」で括ってみせる。日航機事故は恰好の材料に違いない。520人の死。その何倍もの数の遺族の悲しみ。彼らはここぞとばかり存分に善意のペンを揮ったのだろう。
いや……。(略)「いい人」になりたがっているのは悠木とて同じかもしれなかった。
p200

そのほか、世代間の嫉妬、セクショナリズム、新聞が世に出るまでの一面を巡る攻防などの描写に、新聞記者のプライドを強く感じる一冊ではあったが、全体的に、自分が常に問いかけられているような、重い内容だった。


しかし、繰り返しになるが、悠木が40歳であることが、最も自分にとって深く刺さった小説だ。
同年代が主人公の小説を読むと、自分の至らなさに目が行ってしまい、辛くなるが、今回は決定版のような気がする。子どもは中1の長男・淳と、小4の長女・由香で年齢は異なるが、うちと兄弟構成も年齢差も同じ。
今年、自分も40歳になる。2014年末に、再びこの小説を読んでみて、少しは悠木に近づいたと思える。そんな1年にしたいと思った。


映画も見たいです。

クライマーズ・ハイ [DVD]

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*1:むしろ、デーブ・スペクターの言っていた「叶えたい夢なんかなくて、家族と幸せに暮らしたい人が多数派だ」という意見に大いに納得した。