Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

写真絵本で知るモンゴル〜清水哲朗『モンゴル(世界のともだち)』

モンゴル (世界のともだち)

モンゴル (世界のともだち)

乙嫁語り*1中央アジアに興味を持ち始めたところに、椎名誠『アイスプラネット』でモンゴルの話が出てきたので、理解を深めるために、モンゴルに住む小学生の生活を追ったこの本(写真絵本)を図書館で借りてきた。
このシリーズは、通常、社会の授業で勉強する国旗や地図上の位置だけでなく、そこで暮らす人に思いが至る良い本だと思う。よう太*2は物語を読むのが得意で、こういう本はあまり読まないが、暗記モノというイメージで地理が嫌いになりそうな子どもに是非読ませたい本だ。

「世界のともだち」は、36か国の子どもたちのくらしを紹介する全36巻の写真絵本です。写真家が現地へおもむき、各国の子どもたちの家庭や学校、遊びに密着して写真を撮りおろしました。美しい写真と楽しいイラストで構成した、偕成社創業80周年を記念したシリーズです。
偕成社 | 世界のともだち―世界36か国36人の子どもたちの暮らしを取材した写真絵本シリーズ―
http://www.kaiseisha.co.jp/special/friends/


まず最初に訂正から入る。混同していたが、Wikipediaによれば中央アジアの定義は以下の通りでモンゴルは含まれない。

中央アジア(ちゅうおうアジア)はユーラシア大陸またアジア中央部の内陸地域である。内陸アジアともいう。18世紀から19世紀にかけては一般にトルキスタンを指したが[1]、現在でも使用される。トルキスタンとは「テュルクの土地」を意味し、テュルク(突厥他)系民族が居住しており、西トルキスタン東トルキスタンの東西に分割している。

西トルキスタンには、旧ソ連諸国のうちカザフスタンキルギスタジキスタントルクメニスタンウズベキスタンの5ヶ国が含まれる(以下、中央アジア5ヶ国と記す)。

東トルキスタンは1949年に中華人民共和国に併合されて以降、新疆ウイグル自治区と呼ばれる。中国領トルキスタンウイグルスタンともいう。

モンゴルは中国や日本と同じ「東アジア地域」に入るようだ。


主人公は、表紙にも出ている12歳の男の子バタナー(少し朝青竜に似ている)。お父さんとお母さんは遊牧民で、馬100、牛50、羊と山羊70頭をゲルの周りで育てている。
ゲルとは、移動式住居のことで、屋根・壁代わりになる布はフェルトでできているそうだ。太陽パネルで電気をまかない、テレビも見ることができるという説明には驚いた。なお、ゲルの中にはトイレはなく、外で自由にしてよいとのこと。
問題の食事だが、代表的なモンゴル料理は、ボーズ(肉まん)、ホーショール(揚げ餃子)、ゴリルタイシュル(むしやきうどん)。肉は山羊や羊の肉を使ったチャナサン・マハ(骨付きの塩茹で肉)やゲデス(ゆでた内臓)と紹介されている。念のため、改めてジンギスカンについて調べてみると、(モンゴルと無関係の)日本の郷土料理という扱いになるようだ。

ジンギスカン(成吉思汗)は、マトン(成羊肉)やラム(仔羊肉)を用いた羊肉の焼肉料理
北海道、岩手県遠野市、長野県長野市など日本の一部地域では盛んに食べられており、郷土料理となっている。
北海道、岩手県などでは、中央部が凸型になっているジンギスカン鍋(後述)を熱して羊肉の薄切りと野菜を焼き、羊肉から出る肉汁を用いて野菜を調理しながら食す料理[2]である。使用する肉(後述)には、調味液漬け込み肉の「味付け肉」、冷蔵(チルド)肉の「生肉」、冷凍肉の「ロール肉」がある。


さて、学校のある時期は、バタナーの生活の場は草原から大都会ウランバートルに移る。ウランバートルの住居は現代日本と変わらず、ゲームどころか、日本アニメも大好きだという。
自分のモンゴルの強烈なイメージは、むしろウランバートルにある。マンホールチルドレンのことだ。ただし、少しググると、マンホールチルドレンと言うタイトルでNHKがドキュメンタリー番組を放送したのは1998年とのこと。その後、経済の発展にしたがって、その数は着実に減っているらしい。

マイナス40度にもなる極寒のさ中で、親を失った子供たちが寒さをしのぐために下水のマンホールで生活をしている――


マンホールチルドレン


そのショッキングな映像と悲惨な実態は繰り返して報じられ、その扱いもかなり大きなものであったと記憶している。

が、今その話を聞くことはまったくない。

これほど毎日モンゴルの国名を聞くというのに、そのモンゴル社会の問題としてあれほど大きくいわれていたマンホールチルドレンの報道がなされないのはいったいなぜなのか。

聞けば、バブルだ、開発だ、成長だ、と実に景気のいい話ばかりである。

いったいどうなっているのか。

調べてみた。

これを読むと、やはり急速に都市化が進んでいる歪みが出ている部分があるようだ。
『アイスプラネット』にも大型スーパーの進出によってイヌイットの食生活が侵されており、肥満が増えているという話題が出ていたが、この本で読むバタナーは草原での生活と都市での生活を両立できており、日本人から見ても理想的な暮らしに思える。
しかし、日本の4倍を持つ国土の中での、たった一人の小学生を見ても、モンゴル全体のことは分からないわけで、バタナーは相当に恵まれたお金持ちの子どもなのかもしれない、とも邪推してしまう。
例えば、この本で紹介されるモンゴルの夏の風物詩ナーダム(国民的なお祭り)の中の競馬が取り上げられている。バタナー一家の馬も登場しているが、馬に乗るのはバタナーでもお父さんでもなく、雇われ騎手。つまりバタナー一家はオーナーなのだ。


勿論、その辺りの話題については、児童向けの本なので望むべくもないが、やっぱり少し気になるところ。この本を書いた清水哲朗さんは1975年生まれの写真家で、一般向けのフォトエッセイも書いているようなので、こちらも是非読んでみたい。

モンゴリアンチョップ

モンゴリアンチョップ


この『世界のともだち』自体は偕成社創業80周年ということで気合いを入れて出しているシリーズのようで、ホームページにも取材日記など周辺情報が多い。とても面白いので他の国のものもちょこちょこ読んでいきたい。

ルーマニア (世界のともだち)

ルーマニア (世界のともだち)

ネパール (世界のともだち)

ネパール (世界のともだち)

韓国 (世界のともだち)

韓国 (世界のともだち)

バングラデシュ (世界のともだち)

バングラデシュ (世界のともだち)

追記

その後、作者の清水哲朗さん本人から、自身が2004〜2005年に撮影したマンホールチルドレンの作品があると教えて頂きました。元気そうな表情をした子ども達が写っていますが、衝撃的ですね。
http://ambition-photogallery.com/gallery.php?id=71&theme_no=1
http://www.tokyokarasu.net/rojyo.html

*1:3巻まで読了。あまり経験したことのないフラットなテンションの漫画。先が読めず、まさに海外旅行に来た感じ。

*2:もう小学4年生。読書量は自分よりもかなり多い。