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先行き不安な上巻〜小野不由美『風の海 迷宮の岸(上)』

風の海迷宮の岸―十二国記 (新潮文庫 お 37-54 十二国記)

風の海迷宮の岸―十二国記 (新潮文庫 お 37-54 十二国記)

10歳まで蓬莱(日本)で育った泰麒が主人公。
それまで生きてきた世界に漠然として違和感を抱き続けてきた泰麒は、陽子(慶王)とは異なり、すぐに蓬山での生活を受け入れる。
麒麟のかたちに姿を変える「転変」、妖魔を自らの命令を聞く「使令」として手なずける「折伏(しゃくふく)」など、麒麟として生まれれば、誰でもできることが何ひとつできない泰麒。10歳にしては素直で幼く、誰もが守ってあげたくなるような彼を、前作で登場した景麒が同じ麒麟ながら堅苦しいキャラクターとして登場し、教え導くシーンが暖かくていい。


しかし、周囲の努力も空しく、上巻では泰麒は何もできず、王選びも全く進まない。
前作で陽子が慶国の王になったとき(つまり、この上巻に比べるとかなり後の話)には、戴国はまだ荒れているというような話もあったから、泰麒がどのように成長を遂げるのか、そして戴国は王を得て状態が治まっていくのかという下巻の展開も読めない。
勿論、慶国の状況も悪く、陽子の一つ前の王舒覚がこれからどうなっていくのかも気になる。

女仙はもちろん、玉葉でさえ予想はできなかった。
景麒が示す不器用な優しさこそが、慶王舒覚に道を踏み外させることを。
しかし、これはまた別の物語である。
p186


泰麒の性格と同じく、物語は穏やかに進み、この世界の設定が少しずつ分かってくるのがこの上巻ということになるのかもしれない。

  • 麒麟の親代わりを務めるのが女怪で、麒麟の実が孵るまで、枝の下で果実を見守る。泰麒の場合は、汕子(さんし)がこれに当たる。p30
  • 蓬山の歴史の中で、蓬莱に流されてから10年を経て戻ってきた事例はなく破格の数字。p44
  • 蓮の国の麒麟は女性(廉麟)。p54
  • 戴国の王は10年前に亡くなり、次の王が決まっていない。p77
  • 麒麟よりも身分が高いのは、王、と、西王母、天帝。p96
  • 麒麟は獣の形で生まれ、5年ほど経ってから乳離れし、人の形となる。p122
  • 麒麟が乳離れすると、生国に報がもたらされ、王の選定に入る。p122
  • 通常時は黄海に人が入ることはできないが、春分夏至秋分冬至の年4日だけは門が開き出入りが可能となる。蓬山には自分こそが王にふさわしいと思う人々が昇ってくる。p114
  • 景麒は2年前に蓬山を降りて王を選んだ。p134


と、麒麟が王を選ぶ過程を眺めると、景麒が陽子を王として見出す部分は、オーソドックスな泰麒の方法と比べて、かなり異なることが分かる。この世界のルールが分かってくるにしたがって、今わかっている、慶、戴、雁それぞれのことがもっと知りたくなる。他の国(全部で12もの国)の設定も見据えて、ルールを決めているんだろうと考えると、なかなか壮大な物語だ。
まずは次巻を待とう。
ホワイトハート文庫版では上下巻。表紙のイラストは、ホワイトハート文庫の下巻のものが大好きです。)